第79話圭太は冷静に由紀を考える
圭太は、しばらく由紀の背中を撫でた後、「きれい」に由紀を帰した。
由紀は、寂しかったけれど、圭太の真面目な顔を信じた。
下手に粘って、圭太を困らせたくなかった。
本当は、夕食を圭太と食べたかった。
しかし圭太が、「家までタクシーで送る」と言ってくれたので、我慢した。
タクシーが由紀の家に着いて
「寄って行きます?」と聞いたけれど、予想通り圭太は遠慮した。
「家でやりたいことがあるので」
由紀も、素直に「きれいに」タクシーを降りて、実家に入った。
圭太は、実は「家でやりたいこと」などはなかった。
「やるべきこと」としては、母の遺品整理があるが、四十九日の法要までは、手をつけるべきではない、と思っている。
それ以上に、由紀の思い、そして、その思いを受け止めたこと、がずっしりと重い。
マンションの前で、タクシーを降りた。
少し空腹を感じた。
このままマンションに入っても、嫌いなエネルギーゼリーしかない。
「在庫処分を優先する」と決めたけれど、口に入れたくないのだから、仕方がない。
本当は、酒でも飲みたいけれど、喪中であることが気にかかる。
コンビニも味気ないと思ったので、少し歩いて食べられそうな店を探す。
昔ながらの、蕎麦屋があったので入った。
圭太が頼んだのは、山菜うどん。
天ぷらは、胃に重いと感じたから。
蕎麦でなくて、うどんを選んだのも胃にやさしいと思ったため。
ただ、汁が、塩辛かった。
半分ほど食べて、店を出て、マンションに戻った。
風呂や洗濯を済ませ、ソファに座った。
由紀のことを考える。
「逃げない、責任を取る」
そう言ったことは、覚えている。
由紀の「本気」も確かに感じた。
ただ、「難しさもある」と思う。
圭太から見て、由紀は「感情に走る」「安定感に欠ける」タイプ。
歓迎会でも、月島のおでん屋でも、酒に酔って絡んで来た。
これからも、酒の失敗はある、と予想がつく。
圭太としては、確かに「逃げない、責任を取る」と約束したけれど、感情に走るタイプの由紀を、どこまで信じるべきなのか、それは難しい。
「俺でよければ、本当におめでたいが」
「まあ、今は、期間限定的に、俺に気があるだけかもしれない」
「もっと条件が良くて、金持ちで明るい男に、気が変わるかもしれない」
そう思うと、圭太は「今後も、慎重であるべき」、と思った。
「由紀の気が変わるまで」
圭太は、その意味、その期間だけでの「逃げない、責任を取る態度」に限定しよう、と考えている。
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