第77話由紀の両親の会話 圭太の父隆の葬儀の話で泣く

佐藤由紀の父保と母芳子は、帰りの遅い娘が心配になっている。


「圭太君の家なのか?」

「圭太君が誘ったのか?」


芳子は、首を横に振る。

「そうじゃないの、由紀が無理やりかな、押し掛けた」

「もう、何度も、やっているみたい」

「由紀は思い込んだら、頑固」

「その上、感情が先走って、突っ走るから」


保は、深いため息をついた。

「そんなに焦らなくてもなあ・・・」

「圭太君も、苦しいと思うよ」


芳子は娘を想った。

「由紀が圭太君を好きなのは、いいの」

「私は、圭太君が旦那さんなら認める、むしろ、後押しする」


保も頷く。

「そうだなあ、由紀にはいいな、任せられるよ、圭太君なら」

「律子さんのこともあるし、しっかりしているよ、俺も認める」

「むしろ、お任せしたい、こっちから頼みたい」


芳子は、そこで、不安を口にした。

「でもね・・・圭太君にもね」

保は、芳子の気持ちを察した。

「そうだなあ・・・押し掛けられてもか・・・」

「何が何でも、由紀である必要はないか」


芳子は、深く頷いた。

「何か・・・圭太君の心が回復していないのに」

「そのスキに・・・無理やり?」

「圭太君にも、選ぶ権利はあるよ」


保も理解した。

「佐藤家としては、圭太君なら、大歓迎」

「圭太君と由紀の子なら、孫が欲しい、抱きたい」

「でも・・・圭太君に無理やりも・・・」

「それも、かわいそうなことだなあ」


芳子は、顔を暗くした。

「圭太君のお父さんの隆さんは、若くして交通事故で亡くなっているよね」

「圭太君が中学生の頃、ハンサムで優秀な弁護士さんだった」

「律子さんとは、恋愛結婚、それは幸せな結婚、圭太君が生まれて幸せな家庭」


保も思い出した。

「ああ・・・築地で・・・道路に飛び出した子供、小学生の女の子をかばって」

「あれは、悲惨な話だったな」


芳子は、泣き出した。

「お葬式で、律子さんが気丈に耐えて、涙こらえていてさ・・・」

「圭太君は、目に涙をいっぱいためて・・・」


保の目に涙が浮かんだ。(芳子と一緒に葬儀に出ていた)

「その女の子と、ご両親が本当に謝って泣いて」


芳子は、激しく泣き出した。

「ご両親を律ちゃんが、泣かないでくださいって、抱き締めて・・・」

「圭太君は、女の子にやさしく笑いかけて、助かってよかったねって・・・」

「圭太君・・・お父さんも大好きだったのに・・・あんなやさしい顔で」

「そしたら、女の子は、圭太君にむしゃぶりついて泣いてねえ、ごめんなさい、ごめんなさいって・・・・」

「由紀は、そんなこと、何も知らない」

「ただ、感情に任せて、圭太君を追っかけ回しているだけ」


保は、芳子の震える身体を支えた。

「圭太君の判断に任せよう」

「由紀でいいなら、うれしい」

少し間があった。

「由紀で、圭太君が幸せになれるなら・・・」


芳子は、また泣き出した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る