第76話池田光子は、夫池田聡に失望する
池田商事会長池田聡は、妻池田光子から、母華代の「状態」を聴いている。
光子
「先生の意見では、強い鎮痛剤なので、本人の意識も朦朧としていて」
「持っても、一か月ぐらい」
「鎮痛剤を止めれば、その痛みと苦しみで、その日も危険とか」
聡は、うなった。
「総務には準備を進めるように言ってある」
「社葬になると思うが」
光子は、夫聡の無神経が気に障った。
「いいの?それだけで?」
「圭太君のこと、何にも考えていないの?」
「お母様は圭太君に逢いたくて、苦しんで耐えているだけ」
「逢えば、安心して・・・かもしれないよ」
「でも、時間の問題なの、わかっている?」
「お母様の気持ちも、考えてあげて」
「せめて意識が残っている時に」
聡の答えは、また筋を外れた。
「杉並の土地も建物も金もいらないって言ったよ」
「もはや。池田商事にも、池田家にも何の興味ないらしいな」
「まあ、いいか、財産は減らない、相続税は増えるがな」
光子は、本当に腹が立った。
「どうして、池田の男は、そうなるの?」
「金とか、損得しか考えないの?」
「お父様も、そうだったよね」
「私との結婚も、損得勘定だけで!」
「驚いたわよ、嘘ばっかりで、騙されて!」
聡も、機嫌が悪くなった。
結婚以来、文句を言われて来た「親父の損得勘定だけ、人を騙し続けた生き方」を蒸し返されたから。
「親父のことはいいだろう!」
「圭太がいらないって言ったんだから、どうしようもないだろ!」
「圭太が逢いたくなければ、仕方ない」
「それで、おふくろが死ねば、それは運命だろ?」
「そんなの、俺には、どうにもならない!」
光子は、これ以上の相談は、諦めた。
こんな器の小さな男と結婚した、自分が悪いと思った。
(それも、人のいい自分の父が、商売上有利になると、聡の父隆に騙されたような形だった)
(実際結婚して見れば、池田商事の財務は火の車、どれだけ光子の実家の財産が池田商事に注ぎこまれたのか、数えたくもない)
圭太は、「遠目で見るだけでも」と思っていたが、考えを変えた。
「あのやさしい律子さん」の遺影に手を合わせさせてもらう。
そして、圭太としっかり、話をしようと思った。
せめて、今の圭太の写真だけでも、余命僅かの、姑華代に見せてあげたい。
それが、長年やさしく接してくれた姑華代への、せめての恩返しと思った。
本当は、自分が子を授かりたかったけれど、出来なかった。
「これも、池田への天罰か」と思うけれど、それだけで終われば、姑華代も、亡くなってしまった義姉律子も、それでは不憫が過ぎる。
「とにかく、急がねば」と思った。
光子は、明日の予定を全てキャンセルした。
失礼とは思ったけれど、直接、銀座監査法人を訪ねようと思った。
専務の高橋美津子とは、中央区企業の賀詞交歓会で、名刺を貰ってある。
「何も持って行かない」
「ただ、人としての誠意で、圭太と話をする」
光子は、それ以外には、何も考えていない。
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