第75話由紀の激情と、その唇
由紀は、さらに続けた。(かなり、感情も昂っている)
「私、もう、決めました」
「圭太さん、覚悟してください」
「逃げないで欲しいんです」
圭太は、ようやく口を開く。
できるだけ、冷静に返した。
「決めたとか、覚悟とか、逃げないでとは」
「具体的には、何なの?」
由紀は、圭太の目を覗き込む。
「確認です、圭太さん」
圭太が頷くと、由紀は聞く。
「好きな人とか、いるんですか?」
「・・・結婚したい人とか・・・」
圭太は、首を横に振る。
「さっきも言った通り、考えもしなかった」
「結婚には不適格な人間」
「相手に失礼と思っていたから」
「だから、いない」
由紀は、少し涙ぐむ。
「じゃあ・・・あのきれいな人は・・・池田商事の」
圭太は、少し笑う。
「うん、何もない」
「気にする必要はない」
由紀は、真顔。
「あの・・・お願いがあります」
圭太が由紀を見ると、続けた。
「もう、二度と結婚する資格がないとか、言わないで」
「それは禁句に」
「誰も、そんな馬鹿なこと言いませんよ」
圭太が答えず、由紀を見ると、続けた。
「それから、一番大事なお願いです」
圭太は、落ち着いて来た。(もう、聞くしかないと思っている)
「うん、何?」
由紀は立ち上がって、圭太の隣に座った。
「私を、お嫁さん候補に・・・第一号にしてください」
圭太は、口の渇きを覚えた。
「それは・・・」(次の言葉が出て来ない)
由紀は、圭太の顏を両手で挟んだ。
「女性からでは、いけないの?」
「私は圭太さんが好き」
「だから、お嫁さんになりたい」
「だから、プロポーズでも何でもしますよ」
「今夜から、ここで暮らしても、いい」
圭太の声がかすれた。
「どうして、そこまで?」
由紀は、泣き出した。
「もう・・・ずっと好きで、憧れで、心配で、圭太さんしか、心にいません」
「こんなにしたのは、圭太さんが悪いんです」
「責任取ってください」
「家に帰りたくない」
圭太は、頭がクラクラとして来た。
「こんな結婚とか、結びつきが、あるのか?」
「こいつは、単に興奮しているだけではないのか?」
「由紀は、本当に俺でいいのか?」
「もっと明るくて、立派な家柄の男にしたほうがいいのではないか?」
「あまりにも勇み足で、早計ではないか?」
「・・・とにかく、こいつの興奮を何とかしないと」
しかし、圭太の「迷い」は、由紀には通じなかった。
圭太が、口を開きかけた途端、その唇を、由紀の柔らかい唇がふさいだ。
舌も、圭太の舌を、とらえて、離さない。
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