第73話由紀は圭太を問い詰める

圭太は、由紀の「突っ込み」を、やわらかく受け止めた。

「由紀ちゃんは、何を言いたいの?」


姿勢を正した(実は告白の意を固めた)由紀は、顔を真っ赤にする。

何より「由紀ちゃん」の響きが、しびれるくらいに甘い。

でも、ここでしびれているわけにはいかない。

噛んでも何でもいい、と思った。

勢いをつけて、言い切った。


「私、圭太さんが、好きなんです」

「だから、結婚して、子供ができる」

「全く、論理の飛躍は、ありません」


由紀自身、言ってしまって、何も後悔はない。

思ったことを、思った通りに言っただけ。

むしろ、言わないほうが、言わないままで過ごすほうが、辛かったのだから。


・・・あとは、圭太しだい・・・

どうせ、無神経で鈍感な圭太だから

苦労するのは、わかっている。

一筋縄ではいかない、簡単ではない男。

だから、高校時代から、実は憧れていた。

とにかく、すごく、とっつきにくい人。

でも、一旦うちとければ、すごく大事にしてくれる人。


隠れファンも、実は多かった。

映画研究部だったから、映画鑑賞にかこつけての、デート希望者も多かった。

圭太先輩は、同学年の人と見に行ってばかりで、下級生とは、たまに。

由紀は、ほとんど声をかけてもらえなかった。


でも・・・あの時から、好きだった。

変な不良に囲まれて、本当に不安で怯えていた時に、スッと姿を見せてバシッとやっつけてくれて・・・かっこよかった。


「ありがとうございました」て言ったら、手をヒラヒラとして、叱られた。

「アホか、お前、不用心過ぎる、スカート短か過ぎ」

「そう泣くな、お前可愛いけど、泣くと変な顔になる、もったいない」


安心して泣いているのに、感謝して泣いているのに、変な顔?

でも、可愛いとか、いろいろ・・・

(ミニスカートは反省した、健康な太ももだけがウリだった)


おそらく鈍感圭太は、そんなことは覚えていないと思う。

だから、冷たい態度を、取り続けた。

(でも、お母様のことで、心も身体も壊れていた可能性もある)


由紀が、そんなことをグルグル思っていたら、圭太がようやく反応の兆し。


圭太は深く由紀に頭を下げた。

そして、真面目な顔。

「佐藤さんは、もっと自分を大切にして欲しいんです」

「冗談でも、私と結婚とか、言わないほうがいい」

「そんな、心にもないことは、言うべきではない」


少し間があった。

「由紀ちゃんと、言ったのは、謝ります」

「二度と言いません、申し訳ない」


由紀は、圭太から視線を外さない。

圭太の「引き言葉」は、想定内。

泣こうとは思わない。

圭太を問い詰めようと思う。


気合が入った。


「うるさいです、圭太さん」

「そういうゴチャゴチャは認めません」

「私が、圭太さんを好きなんです」

「圭太さんに邪魔する権利はないです」


「え?」と目を丸くする圭太に、由紀は迫った。


「私、圭太さんが好きです」

「だから、理由を聞く権利あります」

「どうして、そんなに引くの?」


由紀のあまりの勢いに、圭太は、下を向いてしまった。

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