第70話お昼の老舗和食店 圭太と由紀の会話
圭太自身、話し過ぎたと反省していた。
だから、すぐに謝った。
「悪かった、食事の前に無粋な話をして」
しかし、由紀はうれしかった。
「圭太さん、そんなことないです」
「というか、うれしいです、面白い、圭太さんのお話好きです」
(冷たい圭太ではないので、本当にうれしい)
そんな二人の前に、煮魚定食と天ぷら定食が置かれた。
由紀は、はしゃいだ。
「すごい!いい香り!」
「さすが名店、圭太さん、ありがとうございます!」
圭太は、うるさいので、聞いていない。
煮魚を、少し口に含む。
自然な言葉が出た。
「美味しい・・・何年ぶりかな、こんな美味しい魚」
エネルギーゼリーだけの食生活から比べれば、そもそも比較にならない。
ご飯も、煮魚の甘辛が、実に合う。
米自体も、久しぶり、と思うが、由紀には言いたくない。
食事に集中する圭太に由紀が声を掛けて来た。
「圭太さん、ハゼの天ぷらと、煮魚を少し交換しません?」
圭太が由紀を見ると、丸い目で笑っている。
圭太は、少々遠慮気味。
「うん、煮魚は、取りたいだけ」
「天ぷらは、胃が本調子でなくて」
由紀は、圭太の遠慮に配慮しなかった。
煮魚を半切れ、ハゼの天ぷらと、あっさりと交換してしまう。
「大丈夫ですよ、圭太さん、食べましょう」
「私は圭太さんの食べさせかかりですから」
(一生でもかまいません、と言おうと思ったけれど、自制した)
圭太は、ここで抵抗して、由紀に怒られるのも困ると思った。(あるいは泣き顔も嫌だった、由紀は泣き顔になると、実に不細工な顔になる)
素直にハゼの天ぷらを口にする。
「天ぷらも・・・二年ぶり?美味しい、ありがとう」
由紀の反応は、また予想外。
「はい、煮魚美味しいです」
「これで、圭太さんと、間接キスかなあ」
(その顔も赤くなった、言って恥ずかしいと由紀は思った)
圭太は、珍しく笑った。(やわらかい、大人風の笑み)
「煮魚の煮汁でってこと?」
「それも間接キスになるの?」
由紀は赤い顔のまま。
「なります、女の子は敏感なんです」
「・・・圭太さんが鈍感なだけです」
圭太は、また笑う。
「それは・・・中高生が・・・珈琲とか、お洒落な飲み物で反応する感じと思うよ」
「でもさ、例えば、カレーとか、かつ丼でも、そういう反応になるの?」
由紀は返事に困った。
「あの、どうして、圭太さんは、そういう変な発想に?」
「そういう微妙な年齢の二人が、かつ丼・・・カレーはともかく・・・」
それでも、圭太をじっと見た。
「・・・私、圭太さんとなら、気にしません」
「うん、なーんにも、気にしません」
今度は、圭太が返事に困った。
「どういう意味?」
「先輩と後輩だから?・・・違うか・・・」
「職場の同僚も・・・違う」
由紀は返事に困る圭太が面白い。
「この人・・・ずっと見ていたい」
そして、「告白」する意思を、固めている。
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