第68話圭太と由紀の漫才風攻防戦

圭太は、「ところで」と佐藤由紀の顏を見た。

「覆面で調査ですので、私は私服に着替えます、佐藤さんはどうします?」


佐藤由紀は、焦った。

「え・・・持っていません」

しかし、圭太を責められない。

圭太との同行を無理やり願ったのは、自分だったのだから。


結局、圭太の着替えを待つ。

「この冷酷男!何で覆面調査するを事前に言わないの?」

「マジに口が短過ぎる」

と思うけれど、今さらどうにもならない。

「本当は私服でデートしたい」も、「切に願う」けれど、「してくれるの?あの圭太が」と思うので、待っている間が、実に辛い。


圭太がロッカー室から出て来た。


目を見張った。

「うわ・・・水色のセーターに、白ポロシャツ、ブルージーンズ?」

「黒の革カジュアルローファー・・・」

実に絵になる、ファッションモデルでも通用する圭太だった。(佐藤由紀は、また惚れた)


「あの・・・圭太さん、似合うんですが・・・」(こんな、ひねた言い方もしたくなる)

「そっちのほうが好きです」(好きって言ってしまって、マジに顔が赤くなるのも自覚した)


圭太は、紙袋を持っていた。

「少し大きいかな」と言いながら、紙袋から薄い紺のジャケットを出して佐藤由紀に渡す。


由紀は、また胸がドキン、しかし手は止まらない。

そのまま紺のジャケットを羽織る。

「確かに大きいですけど、うれしいです」(言っていて、本音そのものと、恥ずかしい)


圭太は、少しやさしい顔。

「では行きましょう、佐藤さん」

佐藤由紀は、そのやさしい顔にも、震えた。

「あの・・・どうかしたんです?そういう顔・・・久しぶり」


圭太は、呆れ顔。

「あの・・・先輩監査士の佐藤さんに言うのも・・・」

由紀は、目が泳いだ。

「はい・・・」(何を言って来るのか、実に不安)


圭太

「覆面調査です、厳しい監査顔で入れます?」

由紀は、何とか挽回しようと思った。

「では、先輩監査士として、忠告します」


今度は圭太が神妙。

「はい、何でしょうか」

由紀は胸を張った。

「まず、厳しい監査人同士で入らないのですから、佐藤さんではいけません」

「由紀と呼んでください」


圭太は、冷静。

「少々、論理の飛躍があります」

「名前呼びは、家族とか、友人とかでは?」

由紀も言い返す。

「私、後輩でしたから、由紀にしてください」


圭太は、ここで考えた。

「わかりました、由紀さん、女子の後輩なら、さん付けでもいい」

由紀は、まだ納得しない。

「嫌、由紀がいい」


圭太は、どうでもよくなった。

「由紀ちゃんでは?」


由紀は、身体の力が抜けた。

「え・・・由紀ちゃん?恥ずかしいです」

「何か・・・もう・・・」

「やばい・・・圭太さん・・・フワフワして来ちゃった」


そんな話をしながら出て行く圭太と由紀を見ながら、専務高橋美津子は、おかしくて仕方がない。


「まるで漫才、あの二人、見ていて楽しい」

「さて、先輩と後輩か、兄と妹か、恋人は・・・まだまだかな」

「圭太君に、その気がまるでなし」

「でも、本当はやさしい子だよね、圭太君」


専務高橋美津子は、由紀のスマホにメッセージを送った。

「恋人風に覆面調査を指示します」

「ついでにチョコレート買って来て、みんなで食べよう」


由紀から、すぐに返信があった。

「はい!恋人です(私的には)、チョコは了解です!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る