第67話池田華代の苦しみ②嫁光子も泣く。
病室に、池田光子が入って来た。
池田商事会長池田聡の妻。
池田華代からすれば、息子の嫁になる。
涙で目を腫らした華代に驚いた顏。
「お母様、何があったのです?」
「聡さんと何か?」
光子は、時折聡が厳しいことを華代に言うので、心配になった。
華代は、涙が止まらない。
「ごめんね、光子さん」
「つい、律子のことを思ってしまって」
光子は、華代から「手離してしまった律子」のことは聞いていた。
華代から、自分の娘を、家の事情で手離し、その上、好きでもない男と結婚させられた事情を聞いた。
その事情が、どれほど、華代の心を苦しめ、また律子にも苦労をさせて来たのか。
光子は、やさしい性格。
嫁ではあるけれど、華代が可哀想でならない。
また、本来は義姉になる律子や、その息子の圭太について、本当に心配をしていた。
「お母様、そんなに」
光子は、華代の手を握った。
痩せたな、と思う。
嫁いだ時は、きれいだった。
つんけんすることもなく、まるで実の母のように、時には姉のように、いろいろと相談に乗ってくれた。
「律子さんの死、圭太君は、律子さんを一人で看病して一人で看取った」
「それを池田商事は、全く把握していなかった」
「圭太君が池田商事を辞めたのは、律子さんの状態が悪化して、それを池田商事に伝えることが出来ないと判断したため」
その話を、夫聡から聞いた時は、背筋が寒くなり、膝の力も抜け、座り込んだ。
「どこまで、池田は律子さんに、圭太君に冷たくするの!」
光子は、夫聡のうなだれた顏など見たくなかった。
姑の華代、義姉の律子、圭太が、可哀そうで仕方ない。
池田の罪の深さも、恐ろしいと思った。
華代は、光子の手を握り返した。
「圭太君を見たいの」
「せめて、一目でも」
「お礼を言いたい、言わないと」
華代は、また目が潤む。
「あの世に行って、律子に顔向けできないもの」
「この世でも、母でなく・・・」
「あの世でも、顔を見られないの?」
光子は華代の背中を撫でた。
「ごめんなさい、何もできなくて」
光子も泣けて来た。
「・・・子供もできなくて・・・」
「お母様・・・ごめんなさい」
何度も謝って来たけれど、また謝る。
華代が光子を抱き寄せた。
「いいのよ・・・光子さん」
「あなたは、充分、聡を支えてくれた」
「うれしかった、感謝しています」
看護師が入って来た。
華代の血圧と体温を測る。
「上が75ですね。少し低いかな」
「体温は正常、36度」
光子は看護師に願った。
「お母様と、もう少しお話していてもかまわないでしょうか?」
看護師は、難しい顔。
「休ませてあげてください」
「それと、少しお話があります」
光子は、しかたなく病室を出た。
光子を見送りながら、華代は、また泣いた。
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