第61話圭太と監査士たち 由紀は無理やりに
圭太と佐藤由紀は、銀座監査法人に戻った。
ただ、圭太も佐藤由紀には、全く会話はない。
圭太は、監査チーム主任の久保田や他の監査士たちと監査の仕方について話し込んでいる。
圭太
「高級食品スーパーなので、輸入食材も多いようですね」
久保田
「そうだね、為替も見ておかないと」
圭太は別の視点。
「産地偽装もありえますよ、日本語シールとパッケージのフランス語が違う場合も」
久保田
「そうか、英語はわかっても、日本人はフランス語わからないよね」
圭太は苦笑い。
「私もフランス語は苦手です、せいぜい地名ぐらい」
「現地で張ったシールに偽装があれば、お手上げ」
「もともと、アジアに輸出するものなので、味なんてわからないと思っている」
「かなり、人種差別は厳しいから」
チームの鈴木監査士も、話に加わって来た。
「そうなると、産地もわからないよね、本当は」
圭太は頷いた。
「例えばワイン、かなりルーマニアのワインが入っていますが」
「日本産とも、相当ブレンドされていて、日本ワインとして売られています」
「適正価格かどうかは、また難しい問題」
久保田が圭太の顏を見た。
「圭太君は、ワインが好きなの?」
圭太は、笑顔で久保田を制した。
「まだ、喪に服しておりますので」
「ただ、それが終わったら、もう少し気楽になりたいなあとは思います」
久保田が話を戻した。
「仕入れ担当者にも面談しようか」
圭太
「為替と価格設定の妥当性」
「産地、賞味期限の認識の評価」
「それらに矛盾点があれば、突っ込んで聞いても・・・おそらく経営者の利益優先とか、そんな返事かな」
鈴木監査士
「しかし、顧客の口に入るのだから、真正なものであるべき」
「食品スーパーも、健康被害は出したくないだろうし」
圭太は、表情を厳しくした。
「築地商会の岡田社長も、不祥事は隠すようですね」
「難しいですね、厳密な監査も」
主任の久保田も顏を曇らせた。
「指摘は行った、改善は、そこの社が自主的にやらないとなあ」
「我々は金を貰って監査する、そこに限界も感じる」
そんな話を終えて、業務時間は終了した。
圭太が、そのまま銀座監査法人のビルを出ようとすると、佐藤由紀が真っ赤な顔。
「逃げないでください、圭太さん」
圭太は、思い出した。
「お昼に言っていたこと?」
「夜ごはんも一緒?」
佐藤由紀は、圭太の袖を掴む。
「母が、来てくださいと」
圭太は、首を横に振る。
「そう言われても、また残してもね」
「それと、ありがたいけれど、自分の食生活は自分で決める、それが大人では?」
「お気持ちだけでありがたい、よろしくお伝えください」
圭太としては、誠意を込めた返事と思った。
そして、佐藤由紀もそれで引き下がると思った。
しかし、そうはならなかった。
何より、佐藤由紀が圭太の袖を離さない。
そして、お決まりの文句が出た。
「うるさいです、圭太さん」
圭太が、逃げようとすると、手首を掴んで来た。
「ゴチャゴチャ言わないで欲しいんです」
「とにかく、私の家に来てください」
「そうしないと、母に怒られます」
「母も泣きます、私だけでなくて、母も泣かせたいの?」
圭太は、「どういう理論なのか?」と思ったけれど、由紀の掴む力と体力に負けた。
そのまま、佐藤由紀の家に向かうことにした。
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