第59話佐藤由紀は、圭太に決めた。

佐藤由紀は、圭太に「決めた」、何が何でも「離さない」と決心を固めている。

実は、昨日の夜、厳しい母芳子から、「圭太君なら、認めます」「むしろ、後押しします」と「お言葉」もあった。(お言葉がなくても、圭太以外には、旦那様は考えられないけれど)

父の保も、「母さんと由紀がいいなら、真面目な子らしいね」なので、両親が認めたことになる。

それでも、母芳子が、心配していたのは、「圭太君の心理」なのだ。


母芳子は、シンミリと言った。

「以前、圭太君に会ったのは、彼が大学生の頃」

「律子さんに呼ばれて行ったら、圭太君がいてね」

「本当に礼儀正しくて、ハンサム」

「紅茶を淹れるのも上手」

「世間話も、本当に面白いの」

「それと、律子さんを、すごく大事にしていて」

「母さんがいなくなったら、天涯孤独ですともね」

「そんな寂しいこと言わないでよって、言ったの」

「圭太君、それが本当になって・・・」

「一人で世話して、今は、本当に寂しいだろうね」

「全く・・・私が母をしたいぐらい」


そんなことを思いながら、佐藤由紀が、圭太を連れ込んだのは、町中華。

「圭太さん、もたつくから、私が注文しますよ、いいですね」


圭太は、完全に押されている。

「あ・・・ああ・・・任せる」


由紀は、あっさりと「スープ炒飯二つ」を注文、ニンマリと圭太を見る。

「美味しいですよ、ここ」

圭太は、キョロキョロと店内を見る。

「学生も多い、場違いな感じ」


由紀は、笑顔のまま。

「日比谷高校の時代から、通っています」

「美味しいですよ、ここ」

圭太は、少し顔を和らげた。

「懐かしいなあ・・・」

「佐藤さんとは、あまり話をしなかったけどね」


佐藤由紀は、少し圭太を睨む。

「あの・・・名前で呼んで欲しいって言いましたよね」

圭太は、首を傾げた。

「名前で呼ぶことに、何の意味があるの?」

「佐藤さんでは、良くないの?」


佐藤由紀は、引かない。

「うるさいです、圭太さん」

「私が、そうして欲しい、それが意味で理由です」

圭太は、珍しく笑った。

「何か、高校生のラブコメアニメみたい」


佐藤由紀は、圭太の意外な言葉に驚いた。

「え?圭太さん、そんなの見るんですか?」

圭太は、今度は慌てた。

「あ・・・高校生の頃、見たかなあ、そんな程度」

「で、由紀さんって言えばいいの?」


佐藤由紀の顏は、赤くなった。

「由紀さん・・・」

「あの・・・由紀でもいいです」


大盛り気味のスープ炒飯が、二人の前に置かれた。


圭太は、冷静に戻った。

「これを、完食しろと?」

佐藤由紀は、胸を張る。

「当然です、これも由紀のお願いです」

「聞いてくれますよね、圭太さん」


圭太は、スープ炒飯を一口食べる。

「あ・・・美味しい」

「昔風の関東味?」

佐藤由紀も、食べ始めた。

「そうなんです、私は最近流行の豚骨より、こっちが好き」


圭太は、珍しく食が進む。

「どうもね、マンションの周りは、もんじゃばかりでね」

由紀は、バクバクと食べる。

「そうですね・・・もんじゃ通りですもの・・・嫌いです?」


圭太は、素直。

「毎日、匂いを嗅ぐとねえ・・・飽きる」

「でも、この炒飯は好きだなあ」


佐藤由紀は、そんな素直な圭太がうれしくて仕方ない。

ますます爆食が進んでいる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る