第50話丹沢温泉③

圭太は、小料理屋「由美」の、カウンター席に座った。


女将の「由美」は30代後半、童顔。

旅館の姉の女将から話を聞いていたのか、笑顔で

「田中様、お待ちしておりました」との挨拶。


圭太は、少し考えて注文。

「ビールを、料理はおまかせします」


女将由美は

「田舎料理ばかりですが」と、ビールを注ぎ、「長芋の梅肉和え」を出す。


圭太は、喉は乾いていたので、ビールを半分飲み、「長芋の梅肉和え」を少し食べる。

「美味しいです」の、愛想も忘れない。


女将由美は、うれしそうな顔。

「ありがとうございます」


圭太の緊張も少しほどけた。

「落ち着いた、静かなお店で」

「気持ちが休まります」


女将由美は、丁寧にビールを注ぐ。

「お仕事のことは忘れて、ここでゆっくりと」


圭太には、その定番の接客言葉でも、うれしかった。

「助かります」

と、つい本音を漏らす。

ビールも、ほっとしたついでに、飲み干してしまう。

和食が出そうなので、冷酒に切り替えた。


女将由美

「お酒がお顔に出ないタイプ?」

圭太は、少し笑う。

「そうかもしれません」

「でも、自分では鏡を見ませんので」


女将由美はクスッと笑い、冷酒(地酒らしい)を圭太に注ぐ。

料理は、豆腐の味噌漬けに変わる。


女将由美

「お口に合います?」

圭太は、ゆっくりと味わう。

「不思議な食感で、好きです」

「冷酒に合います」


女将由美は、やさしく微笑むだけ。

圭太は、その口数の少なさが、休まる。

落ち着いて見守られているような感じ。

若い女性では出せない安心感がある。


出て来る料理は、蒸し鮑の漬け、たけのこの土佐煮と続く。

どれも、冷酒には合う。

冷酒も進んだ。


女将由美は、カキフライを出して来た。

「タルタル、レモン、ソースどれに?」

と聞いて来たので、シンプルに「レモン」と返事。


そのカキフライも美味しかった。

圭太は、そこで満腹。

ただ、女将由美は、ご飯類を出したい雰囲気。


圭太は、少し迷い、女将由美を手で制した。

「ごめんなさい、こんなに食べる習慣がないので」

「でも、美味しかった、ありがとうございます」

少し残念そうな女将由美を後に店を出た。


旅館に戻り、部屋でゆっくりしていると、女将が入って来た。

圭太は、女将のマッサージを受けた。

あまりにも、気持ちが良かったので、そのまま眠ってしまった。

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