第49話丹沢温泉②

圭太は、そのまま、少し眠った。

目を開けようにも、まぶたが重い。

「どうにもならない」状態のまま、眠りの世界に入った。


起きたのは、お昼過ぎ。

耳元で、女将の声がした。

「あの、田中様、お昼はいかがいたしましょうか・」


圭太は、目をこすりながら、身体を起こした。


「ああ、寝ていました」

「・・・食べようかと・・・」

「ありがとうございます」


わざわざ呼びに来てくれた女将に感謝した。

これが、和風旅館の「おもてなし」なのか。

とても今風のホテルではないサービスと思った。


女将は、午前中よりは、親しみのある笑顔。

「スヤスヤとお眠りに」

「よほどのお疲れですか?」


圭太は苦笑。

「いえ・・・なまけものなので、眠いだけ」

なかなか面白い反応が出来ない自分を恥ずかしく思う。


昼食は、ロビーにある土産物店の隣の喫茶スペース。

いかにも昭和風の雰囲気が、漂っている。

圭太が頼んだのは、カレーライス。

食べやすい、昔風のカレー。

それでも、スパイスは強めなので、目が覚め、汗も出て来た。


昼食を簡単に終え、旅館の周囲を軽く散歩。

それほど面白い場所もないので、旅館に戻り、温泉に入ることにした。


その温泉も、脱衣場からして、やはり昭和レトロな雰囲気。

洗い場に入っても、その雰囲気は、そのまま。

「きれいな温泉もいいが、このほうが休まる」

「何より、余計な神経を使わない」


露天風呂とサウナにも、10分ずつ入り、たっぷりの汗。

「後でまた入るかもしれない」と自重して、脱衣場に戻った。


大きな扇風機があったので、身体を冷やしていると、冷蔵庫が見えた。

ガラスケースから、牛乳、フルーツ牛乳、珈琲牛乳、ビールも見えている。


圭太は、フルーツ牛乳を選んだ。

「滅多に売っていない」が、その理由。

昔懐かしい甘味が、喉の渇きを癒した。


部屋に戻る途中に、ビールの自販機を発見。

結局、買って、部屋で飲んだ。

一気飲みだったので、やはり、かなり汗をかいて喉が渇いていたことを実感する。


浴衣のまま、窓側の椅子に座り、丹沢の山々を見る。

ただ、何も感慨はない。


そのまま、畳の上に横になった。

「眠いから、眠る」

それしかない、母の看病、池田商事とのこと、銀座監査法人に転社した、そんな様々な疲れが、押し寄せていると感じた。


時計も何も見ない。

圭太は、再び、眠りの世界の住人と化した。


その圭太が目を覚ましたのは、再び女将の声だった。

「夕刻になりました」


昼よりは、目覚めがスッキリとしている。

「ありがとうございます」

「妹さんのお店でしょうか?」


女将は、笑顔。

「はい、由美という小料理屋」

「この旅館の3軒隣です」

「あ・・・由美は、妹の名前です」


圭太が起き上がって歩き出すと、女将が圭太の肩をトントンと叩く。

「戻りましたら、マッサージいたしましょうか?」


圭太は、素直に「はい、お願いします」と 応じている。


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