第46話池田華代からの手紙で真実を知る。

池田華代から、田中圭太への手紙は長文、端正な字で、時々涙の跡なのか、にじんでいた。

「圭太君、はじめておたよりします」から始まっていた。

時候の挨拶など定例のものを外して、要約すると


・圭太の母律子は、池田華代の実の娘であること。(つまり圭太は血のつながった孫になる)

・池田華代と、里中寛治(圭太の祖父:大蔵省の官僚)は恋仲にあったこと。

・里中律子は、池田華代と里中寛治との子。

・しかし、池田華代は、妊娠を隠している間に、宮田隆(貿易商)を婿とする旨、親によって決められてしまった。(池田商事の多大な借金の肩代わりの目的もあった)

・池田華代は両親と、池田商事の多大な借金問題には抗せず、律子を内密に出産。

・律子は、里中寛治に預けた。里中寛治の妻由美は、池田華代の親友でもあったから。(修羅場になったけれど、納得してくれた)


圭太にとって、何も聞かされていないことの連続。

本来は、対面で話し、釈明するべきと思うが、

「私は、今築地の病院に入院中」の文言を読む。


圭太は、手紙の半分を読み、ソファに横になった。

「つまり、俺は、不倫?不義の娘の子か?」

「母さんは、それを知りながらの人生か」


母律子の笑顔の遺影を見た。

「さぞかし、辛かったのかな」

「俺には何も言わず・・・言えないか、そんなこと」


窓から、池田華代が入院する築地の病院が見える。

「見舞いをするべきか」

「しかし、池田商事を辞めた人間」

「それと、戸籍上は、祖母ではない」

「見舞いに行ったところで、不審者扱いされるだけだ」


圭太は、手紙の、残り半分を読み始めた。

「要するに、逢いたいのか?」

「池田商事をよろしくお願いします?」

「何を今さら・・・母さんを、放り出しておいて」

「母さんを邪魔者扱いしておいて」


自分が池田商事に就職したことも、実に悔しく、恥ずかしく思う。

「母さんに申し訳ない・・・短慮だった」

「母さんは、微妙な顔をしていた・・・」

「そう・・・池田商事なの?」


原因がどうあれ、辞めてよかったと思う。

辞めている時期の葬儀でよかった。

池田商事の身分での葬儀は、母も嫌だったと思うから。


しかし、母と池田華代との手紙の多さも気になる。

母が池田華代を憎んでいれば、手紙など、やり取りもしないはず。

まして手紙を残したり、自分のことを話題にしないはず。

そう思うと、関係は悪くなかったのではないか、そんな疑問もわいてくる。


残り半分の文中に、

「聡は、圭太君を褒めてばかりです」

「だから、辞めるなんて言わないで、戻って欲しいと思います」

「情けない祖母の、最後のお願いです」

「圭太君の気持ちの整理がついたら」


圭太は、そこまで読んで、手紙を母の遺品箱にしまった。

「勝手な言い分だ」

「俺は、そんなことを知らずに育った」

「池田華代との関係で、池田商事に就職したわけではない」

「池田商事に義理はない」


見舞いには行かないことに決めた。

それと、池田商事との全ての接触も、しないことにした。

圭太は、カーテンをしめて、築地の病院が見えないようにした。


再びソファに横になると、佐藤由紀からのコール。

いきなり怒って来た。

「あの!メールをシカトしないでください!仕事の場合もありますから」


圭太は、珍しく謝った。

「ごめん、で・・・何?」


由紀の声が弾んだ。

「週末、デートしませんか?」


圭太は、面倒だった。

即「却下」を言い渡した。

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