第45話圭太の疑問 

圭太の銀座監査法人での仕事は順調に進んでいる。

先輩監査士たちからは「それほど急がなくても」と言われるけれど、圭太は「前のめり」気味に、仕事を進めてしまう。(そういう性分である)


今回の「築地商会」の監査報告書も、圭太担当の部分については完了(呆れるほどの丁寧さで、10回は見直ししている)

ただ、そうなると、業務終了時まで、時間が空く。

他の監査士の仕事については、手伝わず遠慮している。(出過ぎたことは、極力控えたいため)

佐藤由紀が、時々チラチラと見て来るけれど、完全非対応を貫く。

(下手に手伝って、親密な関係になりたくない)

(それでなくても、月島と深川は近い、勝手に飯を作って持って来ても困る)


圭太、書庫にある様々な監査記録を読み、空き時間を過ごし業務終了時間を迎えた。

佐藤由紀が、またチラ見をして来たけれど、当然非対応。

「お先に」とだけ、声をかけ、メトロに乗った。

目指すのは、月島、母が勤めていた税理事務所である。


急ぐのは、母の改製原戸籍の中身を確認したいため。

「もしかすると、池田華代との関係がわかるかもしれない」

ただ、わかっても「今さらどうにもならない」話でもある。

それも理解しているけれど、知りたくなったら、仕方がない。

月島駅を降りて、数分、母の勤めていた税理事務所に入った。


「はい、お待たせしました」

改製原戸籍を渡してくれたのは、母の友人の西田。

「圭太君、持っていていいよ、二部取ったから」

「一部は、申告用に事務所で持っています」


圭太は、二通も一通も関係ない。

とにかく中身を読みたいので、そのまま「ありがとうございます」とバッグに入れて、税理士事務所を出て、自宅マンションに帰った。


郵便受けに、手紙が入っていた。

差出人は、「池田華代」

あて先は、驚いた。

「田中圭太様」だったのだから。


「何故、あて先が、田中律子様から、田中圭太に変わったのか」

「池田華代は、母さんの死を知ったのか?」

「本当に娘なら、線香をあげに来るのに」

「それか、俺の知らない間に、墓参り?」

「でも喪主は俺だ」

いろいろ考えるけれど、それは「池田華代」本人に聞かなければ、わからないこと。


圭太は、池田華代からの封書は、さておき、母の改製原戸籍を見ることにした。


母律子の両親や、住所、母の誕生、父との結婚等が乗っている。

圭太は、何度も見返した。

「池田華代」との関連を示すものは、何もない。


圭太は、母律子の改製原戸籍を書類棚にしまい、「池田華代」から「自分」に送られた封書に目をやった。

ただ、封書を開くことには、戸惑った。

改製原戸籍の中では、血縁関係を証するものは、何もない。


「もらっていた手紙の中身では、母律子は、池田華代の実の娘」

「それで、戸籍に無いのだから」

「実の娘と出来ない事情があった」

「そう考えるべき」

「考えられるのは何か」


圭太が考えたのは、恐ろしく、嫌なこと。

「池田家として、池田華代として、実の娘と認知しなかった」

「法に反する行為なので、法に則した戸籍に乗せられない」

「婚姻関係で法に反する行為とは・・・不倫?」

「俺は、不倫の娘の子なのか?」

「不倫で出来た娘でもあっても、愛情は消えなかったということか?」

「だから、生活費の云々を」


また疑問が生じた。

「池田家と里中家の関係を調べないと、わからない」

「しかし、里中家は、既に途絶えている」

「菩提寺にでも行って見るか」

そこまで考えて、圭太は池田華代からの封書を手に取った。

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