第41話圭太は神保町に 相続税を気にし始めて・・・

「彼氏なら」

おそらく二日酔いの佐藤由紀に心配やら配慮の行いをする。

しかし、圭太自身、そんな自覚はないし、資格もないと思うので、そのまま監査会場(築地商会)に直行した。


その圭太から約15分後、佐藤由紀が赤い顔で入って来て、圭太の隣に座る。

「この!薄情者!」と小声で、小言も聞こえて来た。


圭太は、どうでもいいので聞き流す。

目の前の監査資料に集中して、一日を終えた。(昼食は例によって無し、尚、朝はエネルギーゼリーを飲んでいた)

今夜は佐藤由紀に付き合う気持ちはないので、築地商会を出て、メトロの駅に駆け込んだ。


向かった先は、神保町古本屋街。

馴染みの古本屋もあるので、その店に直行。

中世フィレンツェの官僚マキャベリに関する本(マキャベリ本人の古代ローマに関する著作と、塩野七生氏の「語録」)を買う。

その他、迷って、フランス王朝史などを買って、店を出た。

ただ、読んだところで、「特に面白い話ではない」と思うし「せいぜい雑学にしかならない」ことは、圭太本人がわかっている。

それでも、マンションに帰ってからの長い暇つぶしになると思った。


食欲をそそるようなカレーの匂い、天ぷらの香りもして来るが、圭太は食べる気はない。(まずは、冷蔵庫内のエネルギーゼリーの在庫処分を優先すると決めている)


「他に長い暇つぶしになるのは何か」

圭太は歩きながら考えた。

思いついたのは、「母律子の遺品整理」だった。

銀行の通帳、保険証券などは、相続税申告での必須なので、すぐに思いつく。

その他、母の持っていた家具、衣装は力仕事。

「宝石類は持っていなかったはず」、と思うが、確認はしていない。


「全て税理事務所に相談すればいい」、と思うけれど、最低限の整理も必要と思う。

まだ、何も手をつけていないのが、気になって来た。

住んでいるマンション、月島の地価から考えて、当然相続税の対象になる。

圭太は、不安を覚えた。

「どれくらいの相続税になるのか、それを払う預金があるのか」と。


不安を覚えた圭太は、のん気に神保町を歩いている場合ではない、と思った。

それでも新刊の「相続税申告の手引き」を買い、帰途についた。


マンションに戻り、風呂や洗濯を済ませ、圭太は落ち着いて、まず通帳と保険証券を探す。

しっかりと整理整頓する母の性格なので、両方とも、すぐに見つかった。

その口座残高、死亡保険金等と、地価、マンションの価格を区役所からの固定資産税の台帳を参考に、相続税を仮に算定する。


そして、落ち着いた。

「何とか、母の預金の範囲内で相続税は払える」

「このマンションを処分しないですむかな」


しかし、また別の思いも、浮かんで来た。

「このマンションに住み続ける理由は、実はない」

「そもそも、生きている理由も資格もない人間」

「生きていて迷惑とは言われていないが」

「銀座監査法人も、紹介された以上は、一年は勤めよう」

「相続税を10か月以内に払って、一年で退社」

「また、別の地で暮らす」

「後は、いつまで生きようが、野垂れ死にしようが、俺の自由」


そんなことを思いながら、母の服を見る。

しかし、興味はない。


保存してあった手紙類を確認する。


途中、杉並からの封書があった。

圭太の顔色が変わった。

「池田華代?」

「もしかして、池田聡の母?」

「何故?この家に?」


圭太は、その手紙を読み始めた。


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