第40話圭太の母と由紀の母 圭太の本音
圭太は本当に驚いた。
まさか、母の友人の佐藤芳子が佐藤由紀の母とは知らなかった。
「由紀さんが、酷く酔われていたので、申し訳ありません」
「一旦、私の部屋に入れまして」
隠しし事はするべきではないと思った。
叱られても、ひたすら謝ることしかできない。
警察に連絡されても、素直に応じようと覚悟を決めた。
佐藤芳子の反応は、圭太の予想外だった。
「それはいいの」
「圭太君が気を利かせたと思うから」
「本当にありがとう」
「私は、由紀が恥ずかしくて」
「飲めないくせに、恰好付けて飲んで」
「すぐに感情に走るから、迷惑でなかった?」
「こっちこそ、申し訳ない」
「しっかり叱りますから、懲りないでね」
圭太が、驚いていると、母の話題に切り替わった。
「圭太君が一人でお母さんのことを?」
圭太は、「事情と息を引き取った時の様子」を説明すると、佐藤芳子は泣き出した。
「本当に・・・役に立たなくて・・・ごめんなさい」
「もう・・・律子さん・・・いや、律ちゃんは、真面目で健気で、やさしくて」
「私も、女子高生の頃から、すごく好きで」
「月島に越して来た時は、本当にうれしくてね」
「何度も遊びに行ったり、律ちゃんも、私の家に遊びに来たの」
「・・・今度、お線香をあげに・・・いい?」
圭太も、「ホロッと」しそうになるけれど、こらえた。
「わかりました、母も喜ぶと思います」
「お待ちしています」と返し、電話を終えた。
風呂に入って、洗濯機を回し始め、リビングに戻ると、スマホが鳴った。
佐藤由紀からだった。
「今夜はごめんなさい」(小さな、泣き声だった)
圭太は、できるだけやさしい声で返す。
「いいから、寝ろ」
由紀は、意外なことを言う。
「圭太さんは、そっちの言い方のほうが好きです」
「お前、とか、寝ろ、のほうが好き」
「明日から、そうしてください」
圭太は、どうでもよかった。
「明日も、監査の指導を、よろしくお願いします」
と、電話を切った。
空腹を感じた。
佐藤由紀の酔いが心配で、おでんもロクに食べていない。
せいぜい、大根ともつ煮を少々だ。
酒もコップ酒を半分。
一日の摂取カロリーも、500前後と思う。
食べる物を買いに行く気力はない。
実際、佐藤由紀と、その母への対応で、気力と体力も使い果たした感がある。
圭太は冷蔵庫を開けた。
「エネルギーゼリーの在庫が、あと10」
そして決めた。
「まずは、在庫処分を優先するか」
ただ、空腹と言っても、もともと好きではないし、今エネルギーゼリーは飲みたくない。
だから、水を飲んで、ベッドに入った。
毛布に、佐藤由紀の香水だろうか、匂いが残っていた。
それ以上に気になったのは、酒臭さになるが、それも、どうでもいい。
「もともと結婚する相手でもなく」
「そもそも、俺は恋も愛も不適格、結婚の資格もない」
「そんな、ゴミに不快感を気にする資格もない」
圭太は、そのまま眠りについた。
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