第37話圭太の築地商会分析  圭太は少し由紀に折れる

圭太自身、この仕事に向いていると思う。

帳票類の検証、分析は、池田商事時代から慣れている仕事。

監査と実務で、多少見方のポイントは異なるが、それほど困らない。

少し気になったのは、接待交際費の多さ。(社内規程や税務上の問題はない)

池田商事と規模は変わらないのに、接待交際費の金額も多いし、接待で使う店もランクが高い。(かと言って、築地商会が商品を納入している店でもない)


「要するに岡田社長は、付き合いが好きで、派手好きなのかもしれない」

「池田商事は、その点は締めていた、無駄金は出さなかった」


取扱商品は、池田商事のものと、それほど変わらない。

値段もほぼ同じ。

ただ、利益は、築地商会のほうが大きい(販売実績が、4割ほど、池田商事より多いため)


「堅実な経営を貫くのか」

「あるいは派手な付き合いを好み、会社を伸ばすのか」


圭太は、結論を急がないことにした。

「そもそも在庫を合わせられない会社に、高い評価はできない」と思ったからである。


午後5時で、当日の監査業務は終了。

圭太が鞄を整理していると、佐藤由紀が声を掛けて来た。

「圭太さん、今夜のご予定は?」


圭太は、返事に迷った。

「言う必要はない」と思ったけれど、毎日の「お断り」は人間関係の面で問題がある。

だから、素直に答えた。

「特に決まっていません」

それでも、条件をつけた。

「お食事なら、行きません」

少々空腹を感じていたけれど、銀座で「高い飯」も食いたくなかった。


佐藤由紀は、粘って来た。

「私は行きたいです、圭太さん」

「圭太さんの食べたいもので、かまいません」


圭太は、「食べたいもの」と言われて心が動いた。(やはり空腹には抗せなかった)

それと、佐藤由紀の泣き顔は、見たくなかった。(泣くと、不細工な顔になる)

「今夜くらいは由紀に合わせよう」と、思った。


「重たい食事は無理」

「軽いものでも、いいの?」


佐藤由紀は、笑顔になった。(輝いている、と圭太は思った)

「はい、行きましょう」

「今夜は先輩と後輩で・・・あ・・・日比谷高校の」


圭太と由紀は、隅田川を渡った。(銀座の喧噪を避けた)

入ったのは、月島のおでん屋。(由紀の足が、その店の前で動かなかった)


圭太

「もっと、おしゃれな店があるのに」

由紀はニコニコ。

「いえ・・・今は、これが、おしゃれ」

「いつかは入ろうと・・・子供の頃から」


お酒(コップ酒)は、由紀が頼んでしまった。


圭太

「あまり飲むなよ」

由紀

「それは先輩としての心配?」

圭太

「うん、酒癖悪いだろ?お前」


由紀は、グイッとコップ酒を半分飲んでしまう。

「うるさいです、圭太さん」

「私は、絡みたいです、圭太さんに」


圭太は、慌てた。

「明日も監査の仕事、ほどほどに」


由紀には通じなかった(すでに顔が赤い)

「知りませんよ、そんなこと」


圭太が大根を取ると、由紀が大量のもつ煮を入れて来た。


由紀

「食べないと、もっと絡みますよ」


圭太がもつ煮を食べはじめると、由紀は身体を圭太に寄せている。

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