第28話佐藤由紀は圭太を逃したくない
佐藤由紀は、圭太を逃したくないのが本音だった。
再会してから、とにかく、何度も冷たい態度をされて来た。
「そこまで嫌いなの?」そう思うと悲しくなった。
やせこけた顔も、悲しかった。
日比谷高校時代の、あの輝くような笑顔が見たいと思う。
だから、ここでも迫った。
「寒いんです、腕を組んでも?」
「寒い」は、照れ隠し。
腕を組んで、捕獲することが目的だった。
圭太の戸惑った顔が、快感だった。
「あ・・・人通りも多い、迷惑に」と言ったけれど、無視した。
「圭太さん、うるさいです」
と無理やり、腕を組んで引き寄せた。
「腕が細いですねえ」との「苛め感」も楽しい。
今までの「カタキ」を取ったような快感だ。
圭太の口から出た老舗洋食店は、実は由紀も興味があった。
「行きましょう!」と、無理やり連れこんだ。
由紀はビーフシチューとライスをすぐに決めた。
圭太は、少し迷って、120gのステーキだけを注文。
由紀は、心配になった。
「圭太さん、ご飯とかパンは?スープもありますが」
圭太は、苦笑い。
「まだ、お米とかパンは・・・消化する自信がないので」
由紀は、その後、圭太から、「それに至った事情」を聴きだした。
「それは・・・うん・・・」
「身体がよく持ちましたね」
そんな陳腐な言葉しか出ない自分が情けない。
圭太の今までの心労、その心労を支えて来た身体への悪影響は、圭太以外にはわからないと思う。
「わかりました、食べられるだけ、がんばってください」
まるで、世話女房みたい、と思うけれど、圭太には、そうしたいと思う。
食べながら、聞いてみた。
「ねえ、圭太さん、明日は土曜日です、何かご予定は?」
圭太の答えが少し遅れた。(ステーキを懸命に飲み込んだ)
「ありますよ、出かけます」
「ただ、一人で行きます」
少し間があった。
「地味な場所です」
由紀は、圭太の「地味な場所」が知りたかった。
「その、微妙な表現、気にかかりますが」
圭太の返事は、また想定外だった。
「いや、わかるかなあと」
「墓参りです、就職の報告をと」
由紀は、圭太に頭を下げた。
「ごめんなさい・・・つい・・・」
食事を終え、二人は銀座一丁目の駅目指して歩く。
圭太
「私は、月島で、佐藤さんは、次の清澄白河で」
由紀も、納得した。
「はい、毎晩送ってもらうわけには」
「週末は、ゆっくりお休みに」
駅が見えて来た時だった。
「圭太さん!」
若い女性の声が聞こえた。
圭太が振り向くと、佐藤絵里が立っている。
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