第27話圭太の「地味」な用事 佐藤由紀は無理やり迫る
銀座四丁目の交差点を過ぎた。
圭太は、ようやく佐藤由紀に振り返った。
「地味な用事しかありません」
「気を付けてお帰りください、今日は送りません」
その冷たい口調に、佐藤由紀は、また腹が立った。
「あの・・・私、まだ気が済んでいません」
「意地でもついて行きます!」
圭太は、本当に呆れ顔。
「なら、ご自由に」
「私も好きに動きます」
と、そのまま大きな文房具店に入る。
ついて行きながら由紀は首を傾げた。
「ペンもメモ用紙もパソコンもあるのに今さら?」
しかし、圭太はスタスタと歩き、封筒類が多く置いてある場所に立つ。
手に取ったのは、「お布施」の封筒を複数。
じっと見ていると、佐藤由紀に説明(釈明かもしれない)。
「母の法事用にです、書き損じもあるので、念のため」
これには、佐藤由紀も納得するしかない。
「ああ・・・はい・・・」
自らの短慮も、恥ずかしくなる。
次に圭太が手に取ったのは、「田中」のスタンプ印。
圭太
「これも、あると何か便利かなあと」
「筆には自信が無いので」
佐藤由紀は、肩の力がストンと抜けた。
「確かに、でも、字は上手です、圭太さん」
圭太は答えない。
そのまま、筆記具を見る。
圭太の顔がやわらかくなった。
「もともと、筆記具を見るのは好き、特に万年筆」
そのまま、ドイツ製の万年筆を二本買う。
「あ・・・私も」
佐藤由紀も、つられて買ってしまった。
(特に理由はない、しいていえば、圭太と同じメーカーの万年筆を持ちたかった)
そんな「地味」な買い物を終え、二人は再び銀座の街を歩く。
佐藤由紀は、圭太に迫った。
「ねえ、圭太さん、おなかが減りました」
圭太は、「うーん・・・」と思案。
「通りを渡れば・・・老舗の洋食店があるかな」
「そこに入ったらどうですか?」
佐藤由紀は、「ムッ」とした顔。
「あの!また置き去りに?」
「お昼も置き去りにされました」
「圭太さんのために、握ったおにぎりを6個ですよ!」
「お昼に一人で食べましたよ、置き去りにするから!」
圭太は「え?」と驚く。
「どうしてそんなことを?」
「それは・・・申し訳ない」
佐藤由紀は、しっかりと圭太の袖を掴む。
「もう!余計なことは言わせません」
「しっかり食べさせて、と専務からも言われています」
「その指導責任がありますので」
「拉致でも何でもしますよ、圭太さん」
圭太は、実に困った顔になっている。
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