第26話佐藤由紀は圭太を追いかける
圭太が、銀座監査法人のビルを出ようとすると、佐藤由紀がパタパタと追いかけて来た。
「圭太さん、今夜の予定は?」
圭太は無表情。
「すでに業務終了、言う必要が?」と相変わらず素っ気ない。
しかし、佐藤由紀は引かない。
「あの!気に入りません!その言い方!」
そのまま、圭太の袖を掴む。
圭太は、少し笑う。
「それは、合意のある行為ですか?」
佐藤由紀の頬が、赤くなった。
「いや・・・親睦を深めたい、いけません?」
圭太は困った。
「そもそも、佐藤由紀さん、何の御用件で?」
「昔話には興味ありませんよ」
佐藤由紀の足が止まった。
「その、言いたいことがいくつかありますので」
圭太は、少し歩き、諦めた。
「わかりました、どこかに入ります?」
「あまり時間をかけない程度に」
佐藤由紀は、また顔を赤くする。
「はい!圭太さん」
二人が入った店は、銀座でも戦前からの歴史がある静かな老舗喫茶。
圭太はコロンビア、佐藤由紀はダージリンを注文。
圭太
「それで、ご用件とは?」
佐藤由紀
「あの・・・まず・・・その敬語をやめて欲しいが、一点」
圭太は、首を横に振る。
「まだ、銀座監査法人に入って、二日目の、ド素人です」
「先輩に敬語を使うのは、当然」
佐藤由紀はムッとする。
「あの・・・すでに、監査業務のマスターは時間の問題」
「私より速くて正確、視点も鋭い」
「それに、すごい指摘をいくつも、とてもかないません」
圭太は、少し間を置く。
「実務面から気がついたことを申し上げただけ」
「佐藤由紀さんが先輩であることには、変わりません」
佐藤由紀は、またムッとした顔。
「年上の人に先輩言われるのって、困りますし・・・」
そこまで言って、顔を赤くする。
「それと、二人きりの時は、名前でお願いします」
圭太は、「はぁ・・・」とため息。
「由紀先輩と?」
佐藤由紀は、この返事に呆れた。
怒りもこみあげて来た。
「あの・・・圭太さん・・・」
「由紀でもいいんです」
圭太は、由紀の怒り顔は無視した。
そのまま、ウェイトレスを呼び、会計を済ませて、立ちあがる。
呆気にとられている佐藤由紀には、「予定がありますので」と、一言だけ。
そのまま、喫茶店を出て行ってしまった。
由紀は、急いで圭太の後を追う。
すぐに追いついたので、圭太の袖を掴んだ。
「気が済みません」
「ついて行きますよ、圭太さん」
圭太は、何も言わない、
そのまま、銀座の街を歩いて行く。
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