第25話圭太の監査 佐藤由紀の怒り顔

圭太に置き去りにされた佐藤由紀は、腹が立ってしかたがない。

「何よ!あの人!」

「せっかく、おにぎりを握って来たのに、それも朝二人で食べようと思ったのに」

しかし、今さら何を言って仕方がない。

佐藤由紀は、「おにぎり6個」を一人でヤケ食いするしかなかった。



約1時間後、先輩監査士と帰って来た圭太は、またしても佐藤由紀には、何の声かけもない。

そのまま、警備保障のビデオと出勤記録、入力記録の照合を始めた。

先輩監査士も、気になるらしく、圭太の作業を後ろから見る。


圭太は警備保障の動画を見て、発言。

「この女性社員、動きが不自然ですね」

「午前6時半に出社、倉庫で・・・経理の社員ですよね」

「商品に貼ってあるシールをはがして、貼りかえる・・・しかも大量に」

「何のシールかな」

「それが終わったら、役席者の席で、パソコンを操作、何のために?」


別の監査士が帳票を見た。

「同日同時刻に、役席者権限で、その商品の・・・賞味期限が大量に入力されているね、おそらく、賞味期限シールの貼り直し」


監査チーム主任の久保田が、役席者Gを呼んで事情聴取。

しかし、役席者Gは

「いや・・・全く知りませんでした」と関与を否定。

次に経理女性社員Mを呼んで聴取。

「いや・・・あの・・・言えません」と泣き出す。(結局は、不正処理を役席者Gに強要されたと自供)


そのような不正事例が多く発見される中、また別の問題が発覚した。

警備保障ビデオに、その役席者Gと、シール貼り替え、賞味期限偽装を行っていた女性社員のMの「あられもない痴態」と「現金を渡す場面」が映し出されてしまったのである。


監査チーム主任久保田義人は、早速、築地商会の経営者(岡田社長)を呼んだ。

岡田社長は、真っ青な顔。

「これは、まずい」

「賞味期限偽装は・・・監督官庁から処罰」

「顧客からも・・・キャンセルされるだろう」

「そもそも、強引過ぎた営業もある」

「未収金は増えるばかりで、顧客企業からも会うたびに文句を言われ」

「しかし、賞味期限偽装は、レベルが違う」

「それが、マスコミネタになれば、取り返しがつかないことになる」

「その上・・・不倫行為?しかも社内で?」


蒼ざめる岡田社長の言葉を、圭太が止めた。

「あの・・・無通告で、在庫検査を行ってもよろしいですか?せめて本店だけでも」

「数字上で決算を合わせても、現物在庫が違っていれば、無意味なものになるかと」

「まずは、築地商会として、真実の在庫を確認する必要があると思うので」


「うっ・・・」と頷く岡田社長に、圭太は追い打ちをかけた。

「社員の机の中、ロッカーまで無通告で見る必要があります」

「そこまでやって、完全に在庫を確認しないといけない」

「業務上横領の可能性もありますので」


その後、岡田社長の同意を得て、無通告の本店内在庫確認、及び社員の机、ロッカーの点検が実施された。

結果としては、大幅な帳票と現物在庫の不一致が確認された。(異常に多い物、異常に少ない物もあった、担当者は、ほとんど説明が出来なかった)(前任者から引き継いで業務をしているだけと、言い張った)

また、机内、ロッカーからも、多少の在庫が発見された。(全てが、正式な購入手続きが済んでいなかった)


その日の検査は、終わった。(あまりにも現物在庫と帳票の乖離は多く、大きいので、適正証明は、当分無理と判断した)


監査チームは全員、築地商会を出て、銀座監査法人の会長杉村忠夫と専務高橋美津子にも、中間報告。


銀座監査法人杉村忠夫は、満足げな顔。

「さきほど、築地商会の岡田社長からお礼の電話があったよ」

「この際だから、徹底的に調べてくれと、とにかくウミは全部出したいとのこと」


専務高橋美津子は圭太を見た。

「まさか、警備保障のビデオとは」

「なかなか気づかない、監査資料で求めるなんて、滅多にないから」


圭太は、少し頭を下げる。

「まだ、素人なので、ご迷惑をおかけします」


佐藤由紀は、その圭太を怒り顔で見つめている。

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