第24話佐藤由紀は空振りが続く。圭太の監査
「ご心配には及びません」
「それよりも、築地商会に」
圭太は、佐藤由紀を押し出すように、マンションを出た。
メトロに乗ると、佐藤由紀が身体を少し寄せ気味。
「あの・・・おにぎりを握ったんです」
「おそらく、食べていないかなと思いまして」
圭太は、身体の向きを、少しずらす。(佐藤由紀との接触を避けた)
「いえ、ご心配には及びません」
「おにぎりは、いりません」
「お気遣いへの感謝は、申し上げます」
佐藤由紀の顔が、赤くなった。
「私のこと、嫌いです?」
「本当に、氷みたい」
圭太は、少し間を置いた。
「本日も、よろしくご指導を」
その言葉と同時に、メトロは「築地」のアナウンス。
圭太と、顔を真っ赤にした佐藤由紀は、一言も交わさず、駅を歩き、監査会場に入った。
圭太にとって、二日目の監査実務。
圭太は、自身が依頼した「出勤記録書類」と「日々の帳票、入力時間までわかるもの」の比較検証を始めた。
すると、どんどん、付箋が張られて行く。
これには、隣の佐藤由紀も気になった。
「圭太さん、私、その書類見たことないです、何かあるんですか?」
監査チーム主任の久保田義人や、他の監査士も集まって来た。
圭太は、その手を留めて説明。
「まず、入力時間異常については、一番遅い時間で、午後11時半、現状で数十件」
「それと、その入力者の退社時間をチェックしました」
「全て、退社後に入力です」
「つまり、残業代未払いか・・・」
「それとも、別の人がオペレーションをしたのか」
「そうなると、入力全体の適正性に疑義」
監査チーム主任の久保田義人を始め、全員が驚く中、圭太の顔が厳しくなった。
「有給休暇を取って休んでいるはずの人が、入力しているケースも現在わかっただけで、約20件」
「出勤していないはずの、朝6時に入力記録があるとか・・・意味が分かりません」
「この築地商会は、出勤はタイムカードで帳票入力の連動システムがない、おそらく導入コストを嫌って入れていないのかな」
監査チーム主任の久保田義人も、厳しい顔に変わる。
「それは、不正も可能なシステム」
「誰もいない時間帯に出勤して、内部けん制が利かない状態での仕事」
「もしかすると、他人のIDとパスワードで入力もできるかもしれないね」
「一度、机の中とか、ロッカーまで無通告で監査が必要」
圭太は、ここで少し笑った。
「人事上の未払いなら、何とかなりますかね」
他の監査士から、反対意見が出た。
「いや、それも、法令と社内規に反している」
「少なくとも、指摘事項に該当する」
また、別の監査士たちから意見。
「本人と上司を呼んで、事情聴取します」
「IDとパスワードの管理も聴かないと」
「経営者にも報告が必要かな、これも」
少し黙っていた圭太が、口を開いた。
「警備保障の録画があるはずです」
「それを、質問の根拠にします」
一連のやり取りを聞いていた(発言できるほどの意見がなかった)佐藤由紀は、圭太が怖くなって来た。
「この人・・・鬼?」
それでも、昼は「ご一緒」しようと、思った。
いろいろ話をしながら、「実家で握ったおにぎり」を一緒に食べようと思った。
しかし、圭太は、先輩監査士たちと一緒に昼食に出てしまった。
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