第23話山本美紀の誘い 佐藤由紀の押し掛け

圭太は、月島商店街にたどり着いた。

久々の空腹を感じたが、立ち並ぶもんじゃ焼きの気分ではない。

そうかと言って、目の前にあるコンビニにも入りたくない。

実際、コンビニ食は、何を食べても、同じ味のような気がする。


結局、町中華があったので、そのまま入る。

炒飯もラーメンも食べきれない、と思った。

八宝菜と烏龍茶だけ、炭水化物を消化する自信が無い。

まだ、酒は飲みたくない、どうしても、「喪中」が気にかかる。

それでも、昨晩と今日は、エネルギーゼリーから解放、まともな食事をした、と自賛する。


マンションに戻り、風呂や洗濯の雑事を済ますと、スマホに着信。

山本美紀だった。

「圭太さん!ありがとうございます!」

「全部訂正完了です、これで完璧です!」(声も弾んでいる)


圭太は、どうでもいい。

「ああ、そう」

次の言葉が出て来ない。


困っていると、山本美紀が、また弾んだ声。

「あの!土日でも、空いている日あります?」

「お礼したくて!」


圭太は、ますます素っ気ない。

「用事がある、空いていない」(本当は何もない)

「礼を言う前に、マニュアルを読め」

と返す。


山本美紀は、引き下がらない。

「いやです、私の気持ちがおさまりません!」

「圭太さんの都合に合わせますから」


圭太は、面倒になった。(口先だけでも合わそうと思った)

「ありがとう、また、連絡する、その時は頼む」と、電話を切った。



翌朝になった。

午前7時半、圭太が着替えを終えると、マンションのチャイムが鳴った。

インタフォンから、「佐藤由紀です」と、聞こえて来た。


圭太は、耳を疑った。

ドアを開けると、佐藤由紀が立っている。

「おはようございます、圭太さん」


圭太は「おはようございます」と返すが、何故、佐藤由紀がここに来たのか、意味不明。

「何かありました?」と聞くことになる。


佐藤由紀は、少し赤い顔。

「深川から歩いて来ました」

圭太は、上手に返せない。

「それは、ご苦労様」

佐藤由紀は、少し頭を下げた。

「昨晩は、ありがとうございました」

圭太は、首を横に振る。

「いや、歓迎会をしていただいて、お礼は、私がするべき」

佐藤由紀は、圭太の顔を見た。

「あの・・・お母様にお線香を」

圭太は、断れない。

そのまま、佐藤由紀をマンションに入れた。


線香をあげ終わると、佐藤由紀は室内を見回し、窓から外も見る。

「すごく、きれい好きなんですね、家具のセンスもさすが」

「へえ・・・隅田川も・・・いい感じに見えます」


圭太は、そんなことより、出勤時間を気にする。

「佐藤さん、そろそろ、監査会場に」

「もう、8時近くです」


佐藤由紀は、その圭太に、クスッと笑う。

「監査は9時から、築地商会まで地下鉄で10分」

「それより、朝ごはんは?」


圭太は、佐藤由紀に押されるままになっている。

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