第19話監査実務

圭太の作業は、やはり、速い。

請求日、請求金額と入金日、入金金額の異常を、1時間ほどで約40件確認。

その理由を、直接営業担当者を呼び出し、聴取確認する。


圭太に質問を受ける営業担当者の顔は青い。

「確かに店舗における売り上げが減って来ていて、請求通りに支払われないケースも多くなって来ていて」

「いや、入金がないわけでもなく」


圭太の表情は、実に冷ややか。

「ブランド力の高い築地商会からの商品を売りにしているので、店舗は断り切れない」

「しかし、この感染状況、来店客も少ない、売り上げも伸びない」

「ほぼ無理やりに、売り込まれた店舗は、過剰在庫を抱えてしまう」

「築地商会としては、その売り上げノルマ達成に一時的な効果」

「商品を届けただけですね」

「代金回収は、遅々として進まず」

「喜ぶのは営業の貴方だけ」

「売りつけられた店舗と、回収しなければならない貴社の担当部署は苦労だけを抱える」

「中途半端な値引き販売で、返品も認めない約定だから、ますます悪循環」

「結局、売り手、買い手の双方に、マイナスだけの取引」


圭太は、少し間を置いた。

「レポートもすぐにできます」

「経営者にも、報告いたします」


営業担当者は、圭太にコテンパンに論破され、肩を落とし、監査会場を後にする。


その聴取を聞いていた佐藤由紀は、圭太の脇をつつく。

「間違いではない、今言ったほうが、ここのためになるとは思いますが」

「少し、言い過ぎ・・・言い方も冷たいと思います」


しかし、監査チームの主任久保田義人は、圭太を褒めた。

「いや、あれくらい言わないと、効果がないよ」

「時には、厳しい意見も大事」

「監査は、表面的な数字を確認すればいい、という考えは、間違い」

「監査対象の問題点を明らかにして、アドバイスすることも大切」

「指摘されて脅かされたから、改善もできる」


そんな指摘の後、圭太は、また迅速丁寧に帳票をチェック。

佐藤由紀から渡された監査資料を全て点検、当日の監査業務を終了した。


主任久保田義人は、その圭太を見て、上機嫌。

「圭太君は、作業のコツを覚えるのが速い」

「それと、総務出身なので、実務にも詳しい」

「即戦力、その言葉がピッタリとはまる」

「助かるよ、本当に」


圭太は、少し表情を崩す。

「いや、初日でしたので、手探りです」

「まだまだ、不慣れを実感します」

「実務と監査は、立場も違うので、戸惑いがないわけでもありません」


久保田義人は笑顔。

「歓迎会をしたい、今晩は空いているかな」


圭太は拒む理由がない。

「こんな私でも、歓迎してくれるなら、よろしくお願いします」


佐藤由紀も笑顔。

「その能面を壊してあげます」

「それと、栄養補給も必要です」


しかし、圭太は、すぐに「能面」に戻っている。

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