第18話圭太の非情 監査実務へ

圭太は思い出した。

「これは日比谷高校の映画部の信州合宿の時」

ただ、顔を赤らめてしまうのは、自分と佐藤由紀が腕を組んでいること。

「こんなことが、あったような」


佐藤由紀は、まだ怒り顔。

「ようやくですよね、圭太先輩」

「ここまで、他人行儀とは、知りませんでした」


圭太は、追い込まれた。

「いや・・・よく覚えていなくて、申し訳ない」

「最初から怒らせてしまったようで」


佐藤由紀は、スマホの写真をじっと見る。

「私、圭太先輩に憧れていたんです」

「だから、無理言って、この写真」


圭太は、答えが難しい。

「それは、うれしい」

少し陳腐な返事になる。

「でも、これからは由紀先輩と呼びます」


佐藤由紀は、また機嫌が悪くなる。

「どうして・・・もう・・・」


しかし、圭太は佐藤由紀の気持ちが全く読めない。

表情も変えない。

「佐藤由紀さんが、この銀座監査法人では、先輩です」

「そこに、過去の事情も何も関係が有りません」

「過去は過去、今は今です」



そんな昼食を済ませ、圭太と佐藤由紀は、徒歩で築地商会本店に入った。

監査会場は、築地商会本店の大会議室。

監査チームの主任、久保田義人は、まだ姿が見えない。

ただ、監査チームには他のメンバーがいるらしい。

4人のメンバーが前後して会場に入って来るので、圭太は全員に自己紹介を済ます。


その後は、佐藤由紀の隣の席に座り、その指示通りに、日々の会計帳票を基本に、稟議書、請求書控え綴り、領収書綴りなどの点検を始めた。


点検を始めて、約30分(午後1時半頃)後、監査チームの主任、久保田義人が、圭太の様子を見に来た。

「どうかな、田中君、慣れないと思うが、基本通りに検証をして欲しい」


圭太も、帳票に付箋をつけながら、慎重な返事。

「佐藤由紀さんの、指示通りに、検査しています」

「今のところは、大きな問題は確認できませんが」


主任の久保田義人は、圭太の付けた付箋が気になった。

「その付箋は?」


圭太は、まだ慎重な顔。

「ハム類をレストランに売っているのですが、請求日と、その支払い、つまり入金日が、相当乖離しています」

「今のところ、全て一年以内ですが、少しずつ入金が遅くなっていますし、金額も減っている状態」

「他にも、入金遅れ、金額異常が常態化しつつある商品、店もあります」

「担当者にも、質問が必要になるかもしれません」


佐藤由紀は、相当に驚いた顔。

「私・・・それ・・・見ていません、見逃していました」

「取引先の経営悪化の可能性もありますよね」

「売り上げ重視、成績重視で売りつけているだけの可能性も」


久保田義人は、監査チーム全員を集めた。

「圭太君の視点、指摘になるが、確かに無理な営業の可能性もある」

「その視点で、再度点検をして欲しい」


ただ、圭太は、他にも欲しい帳票があるようだ。

「出勤記録、データの入力記録の照合も、ヒントになります」

「営業だけ質問しても、わからない不正もありますので」

主任久保田義人は、満足そうに圭太を見る。


佐藤由紀は、驚くばかりになっている。


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