第17話佐藤由紀と圭太②
築地商会本店至近(徒歩3分)の洋食店(築地商会直営)で、佐藤由紀と圭太は向かい合って座る。
佐藤由紀は、評判高いオムライスを注文。
圭太は、サンドイッチと紅茶のシンプルなもの。
佐藤由紀は、下を向く圭太の顔を覗き込む。
「それで足りるんですか?」(その口調も強め)
圭太は、表情を変えない。
「昼は食べて来なかったので、多過ぎるかもしれません」
そのまま佐藤由紀には目を合わさず、店内を観察。
「8割程度の入りでしょうか、オムライスが多いですね」
「この立地で1,500円、安いのが魅力でしょうか」
そしてメニューを再び手に取り、価格設定を見る。
「他のパスタ系は、やや高め、最低2,000円」
「この内装とか、使っている食器類、接客係の制服、接し方の教育もしっかりしている、平均年齢から言って、コストは高い」
「大した黒字ではなく、むしろ赤字かも」
「オムライスの1,500円がなければ、8割は埋まらない」
「玉子価格もポイント、それ次第で、収益も変わってしまう、そんなリスクがあります」
佐藤由紀は、また、圭太をじっと見る。
「あのね、食べる前なの・・・しかもオムライス」
圭太は、ようやく「気がついたようで」また下を向く。
「申し訳ない、つい」
二人の前に、「オムライス」と「サンドイッチと紅茶」が運ばれて来た。
佐藤由紀は、気になったのか、玉子の匂いを嗅ぐ。
「あまり変な玉子は使っていないみたい」
「美味しいと思うよ」
圭太は、黙っている。
そのまま、無表情で、サンドイッチをを食べ、紅茶を飲む。
それでも、佐藤由紀がチラチラと見て来ることが気になった。
「玉子は、おそらく普通のスーパーの玉子と同じ品質」
「香りを悪く感じない理由は、厨房にあります」
「おそらく、真面目なシェフというか、料理人がいて」
「バターは自家製のフレッシュバターを使っています」
「それを使う理由としては、生クリームが余ってしまうから」
「廃棄をしたくないから、それでフレッシュバターを作る」
「仕入れる玉子の状態で、フレッシュバターの使用の程度も変える」
「それで、オムライスにしても、品質を高くできて、しかも保てる」
佐藤由紀は、圭太を睨んでしまった自分を恥じた。
それと、圭太の分析に驚いた。
「私、数字しかわからないの・・・だから、そういう分析は初めて」
「これも監査技術になるのかな」
圭太は、サンドイッチを半分、食べ終えた。
「池田商事にいれば、これくらいの分析は当たり前」
「食品には強くなりますよ、世界中の」
佐藤由紀は、話題を変えた。
「会長も専務も、圭太さんに期待しています」
圭太は、ようやく佐藤由紀の顔を、しっかりと見る。
「ありがたいことです、こんな私を」
佐藤由紀は、じっと圭太を見る。
そして、ムッとした顔を見せた。
「あの・・・いつまで、そんな他人行儀するの?」
「怒るよ、ほんとに」
圭太は、混乱した。
「その他人行儀も何も」
「今日は初めてで・・・転職初日で」
「佐藤さんとも・・・初めてですよね」
「・・・まったく・・・」
ますます、佐藤由紀は不機嫌な顔。
バッグから、スマホを取り出し、「画面」を見せる。
「え・・・マジ?」
圭太は、その「画面」を見て、赤くなっている。
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