第16話佐藤由紀と圭太①
圭太は、「あまりにも簡単に話が進み過ぎる」と思うけれど、「銀座監査法人」入社のための書類を、用意された席で書く。
池田商事の時の机、椅子、PC、部屋と比べると、数段現代的で、豪華さもある。
「銀座監査法人は、かなりな監査料を取る」とは噂で聞いていたので、素直に納得する。
入社の書類を、「指導役」の佐藤由紀が点検。
その際に、池田商事からの離職書類が届いていない旨を告げた。
佐藤由紀は、笑顔。
「圭太さんが会長室で話をしている時間に、直接、池田商事さんに、お聞きしました」
「今日の昼には、ここの事務所に届けられるとのこと」
入社書類の点検が終わると、佐藤由紀から、銀座監査法人の簡単な説明、監査実務の説明、現在監査中の「築地商会」の説明を受けた。
佐藤由紀
「最初は、戸惑うかもしれませんが、私の指定した帳票のチェックをお願いします」
「疑問点があれば、帳票に付箋を貼って、別紙に疑問点を記入願います」
「書類そのものは、築地商会の監査会場にあります」
「特に今日は初日なので、私の指示通りに」
圭太は、一々頷くしかない。
それでも時計は、午前11時半を指している。
つまり、午後から監査会場に行くには、それほど時間が無いと思った。
それと、まずは監査対象の帳票を早く見たいと思った。
「佐藤さん、ここの出発は何時でしょうか」
「もし、差し支えなかったら、早く仕事に入りたいと」
佐藤由紀は、目を丸くして、笑う。
「あの・・・食事をしてからに、私もおなかはすきますので」
圭太は、自分のアセリを恥じた。
「申し訳ありません、机の整理をして、待ちます」
「出発の時には、教えてください」
すると、佐藤由紀が聞いて来た。
「あの・・・私は外食の予定ですが、圭太さんはどうします?」
圭太は、また焦った。
しかし、正直に言う。
「いや、お昼を食べる習慣が無いので、腹は減りません」
「もし、佐藤さんが、外食をなさるなら、時間を見計らって、直接築地商会に出向きます」
「知らない場所ではないので」
結論的に言うと、圭太の「昼飯抜き」は認められなかった。
佐藤由紀は、強硬だった。
「あの・・・こういっては何ですが、圭太さん、顔色悪過ぎです」
「栄養が足りていない、そんな印象です」
「とにかく、銀座は美食の街です」
「一緒に食べましょう」
圭太は、それでも知恵を出した。
「確か、築地商会の近くに、直営のレストランがあったような」
「実務の様子がわかるかもしれませんね」
佐藤由紀の目が、また丸くなった。
「あ・・・同じことを考えました」
「気が合いますね、圭太さん」
圭太は、ここのやり取りで、初めて佐藤由紀の顔をしっかりと見た。
何となく、どこかで見たような気がする。
でも、思い出せない。
聞くのも、実に恥ずかしい。
圭太は、少し引いた。
「気が合うかどうかは、わかりません」
「私で良ければ、ご一緒させていただきます」
佐藤由紀は、圭太を強く睨むような目。
「行きますよ!圭太さん!」
圭太は、下を向いて、佐藤由紀の後ろを歩き出した。
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