第15話圭太の池田商事への思い 銀座監査法人に転職
圭太はコンビニでサンドイッチと紅茶を買い、マンションに戻った。
「久しぶりの人間の食物」なので、美味しく感じる。
そもそも、エネルギーゼリーなど食べ物の範疇ではないと思っている。
とにかく、母律子が、いつどうなるか、わからない状態だった。
病院から電話があれば、すぐに飛び出せるようにと、料理も食器洗いの時間も取りたくなかった、それだけが「エネルギーゼリーでの一日二食」を選んだ理由だった。
「残念」を繰り返し、マンションを去った人事部長宮崎保と人事課山田加奈の顔が浮かんだ。
「仕方ない、今さら」
サンドイッチを食べ終え、圭太はソファに深く沈んだ。
「池田商事の事業そのものが嫌いなわけではないけれど」
圭太は、悔しさも感じている。
池田商事は中堅の商社。
海外から、様々な食材を輸入し、また、日本の食材を輸出する、その業務に強い。
海外にも10ほどの支店を持ち、国内の県庁所在地には、全て支店がある。
「美味しい珈琲もワインも菓子も・・・」
「できればパリ支店で食べ歩きもしたかった」
今となっては、かなわぬ夢になった。
公認会計士の資格があったから、実は数社、監査法人からも誘いがあった。
その中に、四大監査法人の銀座監査法人からも勧誘があった。
田中圭太は、池田商事を選んだ理由を思い出した。
「でも、監査は、数字ばかり追うことになるし、人の恨みも買う」
「できれば、もっと明るい仕事をしたかった」
しかし、いつまでも、終わった話を考えても仕方がない。
すでに銀座監査法人の誘いを受けてしまったのだから。
圭太は、PCを開き、銀座監査法人のHPを確認、下調べを終え、その夜は、久々にぐっすりと眠った。
翌朝、圭太は午前8時半に、銀座監査法人の会長室に入った。
会長室には、会長の杉村忠夫と昨晩連絡をして来た高橋美津子が待っていた。
(高橋美津子は、専務のネームプレートを付けていた)
会長杉村忠夫は柔和な顔。
「ようこそ、銀座監査法人へ」
専務高橋美津子は笑顔。
「律子さんに、よく似ているわね」
「本当に、やさしくて」
圭太も頭を下げる。
「監査は実務に乏しくて」
会長杉村忠夫
「大丈夫、先輩諸氏に話を聞いて、真面目にやれば」
専務高橋美津子
「もう、机もパソコンも準備済みです」
「午後には、監査チームに入って、実務になります」
圭太は驚いた。
「早速。実務は本当だったのですね」
会長杉村忠夫は、笑う。
「ああ、午前中からでも入ってもらいたいのが、本音だよ」
「対象は、築地商会本店」
専務高橋美津子が、クスッと笑う。
「池田商事さんのライバル会社ね」
圭太が頷いていると、会長室のドアにノック音。
中年の男性と若い女性が入って来た。
会長杉村忠夫が目で合図、自己紹介が始まった。
中年の男
「今回の築地商会の監査チームの主任、久保田義人です」
若い女性
「同じ監査チームで、当面、圭太さんの指導をします」
「佐藤由紀と申します」
圭太も、自己紹介。
「田中圭太と申します、不慣れというより初心者なので、よろしくお願いいたします」
主任久保田義人が圭太と握手。
「さっそく、まずは仕事場に」
圭太は、少し緊張顔になっている。
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