第13話会長室にて 会長池田聡の不思議な言葉

池田商事会長室は、さすがに大混乱だった。

会長池田聡は、少しどころではない、本当に怒っていた。

「何がエースの鈴木だ!」

「人事が気に入らなくて、ピンクサロンで婦女暴行?」

「馬鹿か、あの男は」


営業部長杉田正は、深く頭を下げる。

「彼の個人的な事件ですが・・・監督責任を痛感しています」


総務部長吉田満は、苦しい顔。

「彼は、今、警察で事情聴取中です」

「我が社としては、釈放後、懲戒解雇と」


会長池田聡は、ますます機嫌が悪い。

「当たり前だ!いらん、あんな軽い男は!」


その機嫌の悪さのまま、会長池田聡は、人事部長宮崎保に確認。

「おい!人事部長!」

「田中圭太は、いつ戻る?」


人事部長宮崎保は、「圭太の判断」を、そのまま伝えた。


会長池田聡は、「おい・・・」と低い声を出したまま、しばらく沈黙。

およそ5分たって、ようやく言葉を出した。


「それは・・・圭太君の・・・」

「まさか・・・」

「いや・・・そうか・・・」

「うーん・・・」


人事部長宮崎保も営業部長杉田正も、会長池田聡の言葉の意味がわからない。

ただ、総務部長吉田満だけが、頷いている。


人事部長宮崎保は、会長池田聡に確認する。

「圭太君は、戻る気はありません」

「本人は、懲戒解雇でも、と申しておりましたが」

「通常の依願退職で、よろしいでしょうか」


会長池田聡の表情から、生気が失せた。

「ああ・・・」

「仕方がないな」

「申し訳ないことをした」

「謝っても謝り切れない」

「それから・・・特別功労金を払ってやって欲しい」

「せめての、はなむけだ」


会長池田聡は、そこまで言って、営業部長杉田正を会長室から退室させた。

会長室には、会長池田聡と総務部長吉田満と人事部長宮崎保の三人だけになった。


会長池田聡は、「決定事項」と前置き。

「コンプライアンス委員会を開く必要もない」

「鈴木亮は、婦女暴行で懲戒解雇処分、退職金も不支給」

「それから田中圭太は、通常の離職、ただし3年間の素晴らしい仕事に感謝して、特別功労金を支払う」


総務部長吉田満

「了解しました、社内にも通知します」

「ただし、当然秘密厳守とします」


人事部長宮崎保は、頷くのみ。

ただ、会長池田聡の「田中圭太への思い」も、気になった。

だから、聞いてみた。

「会長、確かに田中圭太は仕事が出来ます」

「ですが、どうして田中圭太をそこまで?」


会長池田聡は、首を横に振る。

「言えんよ、それは」

「近くにおきたい、それは本心」

「でも・・・うん・・・言えん」

「申し訳なかった・・・それだけだ」


総務部長吉田満が、人事部長宮崎保の脇をつついた。

「退室して、話す」そのサインと、人事部長宮崎保は、察した。

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