第10話池田商事人事部と圭太
少し間をおいて、圭太は、山田加奈に返事。
「今夜、客が来る」
「もし、差し支えなかったら、別の日では?」
山田加奈の返事は、速かった。
「今からでもいいかな」
圭太は、その速さの理由が不明だったけれど、「では、お待ちしております」と受けた。
「懲戒処分相当」になっていないことは、理由がわからない。
ただ、3年間世話になった会社でもある。
復職はないにしても、話だけは伺おうと思った。
池田商事は、丸の内、つまり東京駅に至近(約2分)、そのままメトロで月島まで、約15分。
池田商事人事部山田加奈と人事部長宮崎保は、約20分後には、圭太のマンションに着いた。
圭太は、神妙に、二人を迎え入れ、ソファに座らせた。
「このたびは、会長名の人事に背き、申し訳ありません」
「懲戒解雇で構いません」
と、再び頭を下げた。
山田加奈は、リビング内を少し見回した。
すぐに気がついたようだ。
「ねえ、圭太君」
「もしかして・・・あの・・・ご不幸が?」
人事部長宮崎保の目が、祭壇の母律子の写真と、白木の位牌を見ている。
そして、すぐにソファから立ちあがる。
「線香をあげさせて欲しい」
圭太は拒めなかった。
「申し訳ありません、ありがとうございます」
池田商事の二人が線香をあげ、手を合わせてから、話が始まった。
人事部長宮崎保が圭太に聞く。
「人事を受けられない、と言われたのは、お母様のことで?」
圭太は、素直に答えた。
「いつ、どうなるか、わからない状態でした、あくまでも家庭内の事情で会社には申し上げないことにしておりました」
「仮に会長付け秘書の場合、母の容態に変化があった場合、会長にも病院にも迷惑がかかる可能性が高い、と判断しました」
山田加奈は、圭太に強く迫った。
「言って欲しかった」
その山田加奈を人事部長宮崎保が抑えた。
「仏さんの前で、声を荒げるものではないよ」
圭太は、母の遺影を見た。
「でも、結果的に、これでよかったと思っています」
「退職後、また、別の仕事を探します」
宮崎保は、首を横に振る。
「会長も、我々も、君の退社を望んでいない」
「何とか、戻ってもらえないだろうか、しかもこの理由を認めては、我々は鬼のようだ」
「会社としても、香典は出したいし、参列もしたかった」
山田加奈も、圭太にすがるような声。
「総務が、グチャグチャなの」
「美紀ちゃんが、毎日泣いているよ」
「日々、合わせられなくて、決算に間に合わない」
圭太は目を閉じた。
「懲戒解雇とばかり思っていました・・・そうなってはいないようですが」
少し間があった。
「やはり、一身上の理由にて、退職します」
「あれだけの大見えを切った男が、オメオメと戻れません」
「理由はともかく、会長名の人事を受けなかった」
「その罰は受けねばなりません、それが私の運命です、退職の書類を早急にお願いします」
圭太は、再び頭を下げている。
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