第7話母の死 そして直葬

「ご臨終です」


医師の低い声に、圭太は頭を下げた。

「ありがとうございました」


涙は出なかった。

泣いている暇などなかった。

目を閉じて横たわる母をそのままに、一旦、廊下に出た。

廊下で、父の時と同じ葬儀社に連絡した。


葬儀社は、約30分後に、遺体を引き取りに来た。

葬儀の担当者は、中年の女性で「杉山」と名乗った。

「ご遺体は、当葬儀社の会館の、ご遺体安置室でよろしいでしょうか」

「それとも、ご自宅にお運びしましょうか」


圭太は、迷わなかった。

「そのまま、葬儀社の遺体安置室にお願いします」


圭太も葬儀社の車に乗り、葬儀社の会館で、担当者杉山と打ち合わせを行った。

圭太は、菩提寺にも、連絡した。

枕経で葬儀社に来た若い僧侶に、聞いた。

戒名と葬儀料で、予想通り100万だった。


火葬の日程、納骨日も決まった。

問題は、葬式の形式だった。


杉山が難しい顔。

「お呼びする人がいない・・・となると」


圭太は頭を下げた。

「感染拡大期なので、家族葬が主流で、私一人しか、家族がいないので」

「式をやっても意味が無いかと」


杉山は、若い僧侶に目配せをして、説明をしてくれた。

「直葬という形式が有ります」

「通夜や告別式などを行わず,直接火葬場に遺体を運び火葬する葬儀の方法になります」


圭太は、ここでも、迷わなかった。

「直葬でお願いします」

火葬場の予約の関係で、直葬日は、母の死の2日後の午前10時と決まった。


その直葬は、簡単に終わり、午後1時には納骨を済ませ、圭太は、そのまま、マンションに戻った。


ここまで簡単なら、会社を辞めないでも、普通の有給休暇で、何とかなったかもしれないと思った。

ただ、それは、圭太自身、すぐに間違いとわかる。


葬儀が簡単なだけで、母がいつ死ぬかは、わからなかったということだ。

事実、死ぬ前日は、今までと変わりはなかったのだから。

もし、会長付け秘書をしている時に、例えば夜の接待時に「突然容体が変化」となれば、こんなに簡単には進まなかったと思う。


そこまで考えて、圭太はようやく落ち着いた。

「これでよかった、これしかなかった」


父と母の位牌に、安心して手を合わせた。

「よかった、母さん、ありがとう・・・これで一緒だね」

少し、ホロッとしたけれど、それ以上に眠くなった。


「今後のことは、明日以降だ」

圭太は、そのまま、ベッドに直行。

食事もせず風呂も入らず、眠りの世界の住人となった。

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