第25話 まだまだ、ツリーハウスは先…
久志のツリーハウス計画が始まって、一週間と云う時間が流れていた。清二の手伝いもあり、昨日どうにか、山道の整備、舗装が終わり、今日から本番のツリーハウス造りが始まっていた。この一週間、家業の農業の手伝いもせずに、没頭していた久志。学校帰りの美香と修二も手伝いも忘れてならない。修二について、一つの事実が判明した。修二は清二の父、昭雄の妹の子供であった。つまり、山中のおやっさんの孫。美香が言っていた。
<ここは、僕だけの秘密基地…>という言葉は嘘ではなかったという事になる。修二のお爺ちゃんの山中のおやっさんが所有している山であるのだから、間違いではなかったのであった。
まァ、今日は日曜日であるから、朝から二人の子供が、姿を見える。久志はいつものようにスーパーカブに跨り、颯爽と姿を現す。美香が手書きをした【秘密のツリーハウス】の看板を掲げる手作りの門がまえの前には、木材を積んだ軽トラックが停めてある。間違いなく清二の車である。
「早いな、清二君。」
カブに乗ったままで、運転席側に近づき、そんな言葉を掛けた。
<おはようございます>助手席側に座っていた修二が、元気のいい挨拶をしてくれる。
「コイツが、はよう行こうって、うるさか、ゆうとですよ。」
そんな言葉を口にして、親戚同士の二人が、二カッと笑っている。男の子というものは、何で【秘密基地】という響きに弱いのだろうか。まァ、久志もその一人の男の子であったのは事実である。
「とにかく、荷台の材木を上に運ばないとな。」
加工された木材を、整備舗装した山道とはいえ、担いで運ぶのは力仕事である。カブを降りて、腕まくりをする久志。
「久志さん、いいもの持ってきたとですよ。これがあれば、大丈夫。」
勢いよく車のドアを開けて、荷台に駆け寄り、あるものを見せてくれる。瓦を屋根まで吊り上げる器械のでッかい版。正直にうれしい久志。初老の久志には、結構つらい作業であった。
「なんだよ。気合入れてきたのに…」
そんな強がりを言ってしまう。この場にいる男達は、早速作業を始める。まずは、器械の取り付け。六月の終わり、初夏の朝。高まる思いを胸に作業を始める。
山の斜面にアルミ材のレールを引き終わった頃、あとは、器械を取り付けるだけだという時、隣にいた修二の姿が、急に視界から消えた。
“ドサ!”尻もちをついた修二の近くに美香の姿が見える。
「おじさん、おはようございます。」
美香は、久志と清二に対して、元気のいい挨拶をして、頭をペコリと下げた。
「修二、あんた何で、先に行くのよ。居なくて焦ったでしょ。」
久志は、突然の事に目を追う事も出来ないでいた。修二が尻もちをついたのは、美香の体当たりで吹き飛ばされていた。修二本人も、目が点になっている。
「美香ちゃん、元気なのもいいけど、やりすぎだぞ。」
尻もちをついた修二の身体を起こそうと、しゃがみ込む久志。
日に日に、じゃじゃ馬ぶりが、激しくなってくる。いい事なのか、子供らしい笑い顔であるからいい事だと思う。出会った頃の悲しそうな表情をする事は、減ってきていた。
<だって>頬をいっぱいに膨らまして、むくれてみせる。女の子にそんな表情をされると、何も言えなくなるから、困ってしまう。
「わかったから、あまり、乱暴な事するなよ。」
<はぁ~い>分かっているのか、拍子抜けしてしまう美香の返事に、頭を掻いていた。
「まァ、とにかく、作業を始めよう。」
作業を再開する久志達。広場の方に清二と美香、トラックから材木を、取りつけた器械に積み込むのが久志と修二。一時間ぐらいかけて材木を広場の方に運ばれていく。
広場には、作業場として、学校の運動会で使う白いテント。(高崎町)と云う文字が、でっかく書いてある白いテントを立てている。昨日、役場が休みと云う事もあり、かわいい後輩の勇蔵と、憎たらしい旧友を連れて、役場の倉庫から、このテントを運んできた。わかるとは思うが、久志の幼馴染、この町の町長である迫田剛史から、無理やり借りていた。材木を運び終わった時には、久志の腕時計の長い針と短い針が重なり合おうとしていた。
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