第23話 久志と清二

翌日、久志と清二の二人の姿が、秘密基地の広場に向かう山道にある。山道を整備する為の脇板を持ってくるように頼んでいた。

<今日、一日手伝いますよ>そんな言葉で、二人は、山道の整備を黙々と作業をしている。初めの内は、ぎこちない二人であったが、同じ時間を、同じ目的で作業をしている中、会話も増えていく。お日様が、真上にあるお昼時、清二の乗ってきた軽トラックの荷台で胡坐をかいて、お互いに向かい合う。久志の買ってきた調理パンを齧る。他愛のない会話で盛り上がる二人。

昼も終わり、二人の作業の結晶である山道の入り口の茂みが、きれいに刈り取られ、見通しのいい歩道が出来上がっていた。あとは、一定の幅で脇板を打ちつけた整地した場所に、砂利を敷き詰めるだけである。

<少し、休憩するか>久志のそんな一言で、一息をつく清二。

<清二君、上行ってみようか>今日一日、山の中で作業をしていた。眩しいぐらいの爽やかな快晴の今日。思い切り、太陽を浴びたくなったのだ。

<わぁっ!>思わず、そんな言葉を発してしまう清二。久志の歩幅に合わせて、ゆったりとした速度で、道なき山道を上がっていくと、いきなり拓かれた空間に、眩しい日光が注いでいる。清二は、いつの間にか、身体が久志の前に出ていた。

<あれ、ここは…>そんな言葉が耳に入ってきたと思ったら、目の前の清二の身体が止まる。

「どうした、清二君。」

思わず、そんな言葉を掛けてしまう。振り向いた清二の表情は、興奮をしている様である。

「霧島さん、この場所、確か、子供の頃、来た事がある。」

清二の記憶にある風景であった。幼い頃の思い出が、一気に頭の中に浮かび上がる。

<そうか>久志は、冷静に言葉を発する。

「確か、おじいちゃんと…そうだ、おじいちゃんに連れてきて貰ったとばい。」

興奮気味の清二。一人で、この空間のメイン、秘密基地の樹木まで駆けていく。

<清二君…>久志は、ゆったりと、清二に近づく。樹木の上の秘密基地を見上げる清二に、こんな言葉を掛けていた。

「この秘密基地は、子供の頃、私と弟が造ったんよ。」

<そうですか>言葉が届いた後、清二の表情が少し変わる。

「じゃあ、おじいちゃんにせがんだのは、久志さんだったんですか。」

<えっ!>清二の言葉に、久志は驚く。自分が山中のおやっさんにせがんだとは、どういう事だろう。

「俺をここに連れてきた時、おじいちゃんが楽しそうに言っていました。」

(お前ぐらいの歳の頃の子供にせがまられてなぁ、これを造らされた。でもな、一緒にこれを造っている内、その子供達が夢中になって、作業しているのをみとったら、わしもうれしくなってな。いつの間にか、わしの方も楽しんどった)

清二の子供の頃の記憶を、久志に説明する。京介と二人だけで造ったと思っていた。清二が言葉にした記憶は、久志の記憶にはない。

<あっ!>そんな言葉と一緒に、昨日の事を思い出す。山中のおやっさんの所で、抱いた幻想。奇妙な感覚。自分が失っていた記憶と重なると、急に、おかしくなってくる。

<ワッハハハ…!>清二の目の前で、プっクリとしたお腹を抱えて、大口に開けて大笑いをしてしまう。

「腹、痛い!」

そんなに言葉を発しながら、樹木を背に座りこんでしまった久志を、心配そうに見つめている清二。

「ごめん、急に思い出してな。そうだ、おやっさんだ、お前のおじいちゃんに助けてもらいながら、これを造ったんだ。」

<えっ!>不思議そうな表情をして、見つめる清二。全く、久志の言葉の背景が見えてこない。

「いいんだ、ごめん、気にしないでくれ。」

小皺が目立つ目じり、清二の姿を瞳に映して笑みを浮かべる。そんな久志の笑みにつられるように、清二も、樹木を背に座りこんだ。

そんな清二の隣で、煙草を取り出すと、一本口に加え、ぶっとい指で百円ライターを擦る。

<どうだ>咥え煙草のまま、清二に向かってそんな言葉を口にする。

<未成年です>そんな言葉を言って、断る清二。

「そういえば、清二君って、何歳だ。」

考えてみれば、清二の歳なり、どうして山中のおやっさんの所に居るのか、聞いていなかった事に気づく。

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