第19話 不審者から、客人

「お嬢さん、始めから、コイツの名前出せばよかったな。ごめんな。あっ、そうだそうだ、言葉ぐらい届けてよ、受話器持ってさぁ。本当に知り合いって事もあるんだからさぁ。」

嫌味にもとれるような言葉。女性の目が点になっている事に、少し優劣感を覚えてしまう。そして、何度も言うが、この役所の対応は、間違っていない。

「勇蔵、確か、町長室。こっちだったよな。行くぞ。」

「チョイ、先輩、待ってください。」

唖然と二人を見送る職員達。今、何が起きたのか、理解できないでいる。そして、大きな声で言おう。あなた達職員の対応は、間違ってはいない。霧島久志という人物の言動が、間違いなのである。結果、こんな感じになってしまったが、役所の職員として、立派な対応であった。


久志と勇蔵の二人は、町長室の前にいた。ドアの前で、自分の身なりを整え始める。身体全体をピンと張り伸ばしている勇蔵が、ドアをノックしようとした瞬間。

「勇蔵、何やってんだ。」

素っけのない態度で、勇蔵の行動に頭を傾げながら、ノックもせずにドアノブに手をやる久志。

ガチゃ!

「剛史、居るか。」

そんな言葉を発しながら、ドアを開ける久志。慌てる勇蔵の姿が、滑稽で面白い。

【町長】と云うプレートが置いている机の向こう側に、どっしりと恰幅のいい男性の姿。ノックもせずに入ってくる久志の姿に、目が点になっている。

「おぉ、剛史、居たわ。居た。」

そんな言葉を口にして、右手を上げる久志は、ものおしせず、ズカズカと足を進めていく。その後ろで、吹き出していく汗をハンカチで押さえる勇蔵の姿も滑稽であった。

「おっ、霧島か。久志じゃぁなかね。」

そんなド太い声を張り上げ、立ち上がる。久志に、右手を差し出し握手を求めてくる剛史の右手を、がっちりと重ね合わせる。

「なんね、帰って来とるんやったら、連絡せんか。」

両手でガっチリと、久志の右手を握り締める剛史は、久志をソファーまで、誘導をする。向かい合って座る二人の後ろ側に、両手を股間の前に重ね合わせて、猫背のまま立っている勇蔵の姿、これもまた、滑稽すぎる。

「久志、いつ、戻ってきたんね。」

「一週間前。」

「えっ、そんな前から、水クサか事、何で、連絡くれんかったんよ。」

「わりぃ、連絡しようと思ったんだけど、お前が忙しいと思ってな。」

久志は、軽く嘘をつく。正直に言うと、そんなに長居をするつもりはなかった。だから、剛史を訪ねようとは思っていなかったのが事実である。

「そんな事よりも、お前に頼みがあって来たのよ。」

久志は、世間話も挟まず、ストレートに言葉をぶつけてきた。

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