第18話 不審者

「だから、剛史に逢いたいだけだって、言っていだろ。知り合いに逢うのに、アポなんか取らなくちゃいけないのか。」

久志は、ムキになる。何度も言うが、役場の役人の対応は正解である。

久志は、完璧に不審者と思われ、職員に腕や肩を掴まれていた。

「おい、やめろよ。痛いだろ。迫田、迫田剛史居るか、霧島久志が逢いに来たぞ。顔を出せ。剛史!」

腕や肩を掴まれながらも、前に進もうとする久志。そんな言葉を叫びながら、身体全体に力を込める。

「何の騒ぎだ。なん、騒いでどるんね。」

奥の方から、ふくよかな、バーコード頭の男性が姿を現せた。

「課長、こいつが、無理やり、町長に会わせろと…」

久志の右肩を掴んでする職員が、そんな言葉を叫ぶ。

「そうです。課長、警察を呼んで…」

次に、左肩を掴んでいる職員。

「おいおい、大袈裟な、私は、ただ…、ふぅん!」

久志は、そんな言葉を発している途中、バーコード頭の男性と目が合い、言葉が止まる。

「勇蔵か、坂下の所の勇蔵だろ。私だ、霧崎、霧崎久志だ。覚えているだろ。」

バーコード頭の男性の目が点になっている。久志の顔を瞬きもしないで見つめている。

「久志さん。霧島先輩!」

バーコード頭の男性が慌てふためく姿が、久志の瞳に映ったかと思えば、あっという間に駆け寄ってきた。

「霧島先輩、何やっとるんですか。冗談にも、ほどがありますよ。」

「それよりも、こいつ等をどうにかしてくれよ。」

課長と呼ばれる男が、久志の事を思い出す間に、ほぼ、床面に抑えられる状態になっている久志は、冷静にそんな言葉を口にする。

「君達、この人は大丈夫だから…」

急に、上司目線になり、凛々しく胸を張ったりする。勇蔵は、言葉遣いからわかる様に、久志の後輩である。小学、中学、高校と二つ下の後輩。

「君達ね。目上の人間に対して、もうちょっと、労わらないとね。はいはい、どいてよ。勇蔵か、お前か、よかった、助かったわ。課長か、偉くなったお前がいて、本当に助かったわ。」

久志は、押さえつけられていた職員に鋭く視線を送る。つなぎの服を両手ではたき、そんな言葉を発しながら、立ち上がる。

「先輩、どげんしたとですか。」

「あっ、そうだ勇蔵、お前に頼めばいいのか。剛史、町長に逢わせてくれよ。大事な用事があるんよ。」

視線が、さっきの受付の女性の方に向く。明らかに、住民課の受付の女性に聞こえるように、大声を上げた。

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