第14話 閃き,アイディア
「美香ちゃんは、この場所は、その修二君の秘密基地だと言いたいのかい。」
ストレートな言葉をぶつける。多分、(ここは私らの場所)だと言いたいのだと感じた久志は、そのままの言葉をぶつけてみた。
「えっ、いや、そんなじゃなくて、修二が、ここは、僕の秘密基地だって…」
会話が噛み合っていない。
「じゃあ、その修二君の秘密基地に、何で、美香ちゃんがいるんだい。」
あくまで冷静な久志は、こんな言葉を口にして、美香の仕草、言葉や言い方を観察している。
「だって、修二が、いつでも使っていいよって言ってくれたから…」
【映画監督】と云う職業は、スクリーンを通して、(セリフ)(演技)(背景)(風景)で、自分が伝えたいものを映しださなければいけない。人間と云うものを撮ってきた久志には、美香が助けを求めているように思えた。
「美香ちゃん、いいかい。この場所は、おじさんにとっても、大事な場所なんだよ。美香ちゃんが、何から逃げ出したいのか分からない。ここには、毎日ではなくても、たまには足を運びたいと思っている。この場所は、美香ちゃんのものでも、私のものでもないんだよ。一人占めはずるいんじゃないかい。」
美香は、とにかく一人になれる場所がほしかったのだろう。うまくいかない、馴染めない今の環境から、逃げ出したいと思っている。一人になれるこの場所を、知らないおじさんに盗られる様な気がして、反感を持っている。
「だって…、でも…」
子供特有の駄々っ子になってしまう。始めは怯えていた美香が、わがままを言い出した。子供と云うのは不思議なもので、安心できる人間は、本能で分かってしまうのかもしれない。
久志は、しばらく、この故郷で暮らす事を考え始めていた。長くはならないと思う、一か月か、二か月、いや、そうと考えていた。今の自分を見つめ返す為に、このままではいけない自分を理解して、前進をする為にも、この場所が必要なのである。京介との記憶が残るこの場所、自分の故郷が一望できるこの場所を必要していた。
…
冷静に言葉を並べる久志に対して、何も言えなくなった美香は、悲しそうな表情を浮かべる。
久志は、肩を落とす美香の姿に、何かいい解決策はないかと、美香にとっても、久志と同様に、この場所が必要なのだろうし、共有できるのが一番ある。
「そうだ、いい事思いついたぞ、美香ちゃん。」
しばらく、沈黙が続いたのち、久志が、そんな言葉を叫ぶ。頭をフル回転させて、解決策を必死に考えた。こんな事で、真剣になる自分を、おかしくも感じてはいるのではあるが、美香という女の子を安心させてやりたいという思いが芽生えてしまったから仕方がない。
「ツリーハウスを造ろう。この秘密基地を、本当の秘密基地にしよう。」
久志は、思わず、美香の肩を掴んでしまう。美香の目線に合わせて、かわいらしい瞳を見つめる。今度は、久志の瞳がキラキラ輝いていた。自分でも、いいアイディアだと感心する。
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