天才



「はやくママもどってこないかなぁ。ね、メリィ」


「メェ!」



 ウルティナが家の中で椅子に座り、魔粘土をコネコネと弄くりながらぼやく。


 メリィはその様子を暖かな目で見守っていた。


 今はエリーシャがフィテロを迎えに行ってるので、ウルティナはお留守番をしてる最中だ。


 今日は三回目の稽古になるのだが、フィテロも忙しかったのか二回目からずいぶんと期間が空いてしまっていた。


 その間ウルティナはフィテロに教わったことを生かして、魔導土人形ゴーレムと戦ったり、魔粘土で遊んだり、エリーシャと街に行ったりと。いつも通り楽しんでいたのだが、



「フィテロおねえちゃん……なんかもってきてくれるっていってたけど、なんだろうねぇ?」



 頭の片隅では常にこのことを考えていた。



「メェ?」



 メリィも見当がつかず、首を傾げている。



「ね。わかんないねぇ」



 そんなこんなで、まったりのんびりと魔粘土をコネコネして、フィテロとテンテンの人形を作り終えた頃だった。



「あ! ママかえってきた!フィテロおねえちゃんとテンテンもいっしょだ!!!」



 窓越しに母の帰宅を確認したウルティナは、駆け足で庭に出ていき、二人を元気いっぱいの笑顔で出迎えた。



「ただいまだウルちゃん! 寂しかっただろ、よしよし」



 フィテロとテンテンを迎えに行ってる僅かな時間離れていただけだというのに、エリーシャはまるで何日も離れていたかのように大袈裟にウルティナの頭を撫でた。



「ううん! メリィもいっしょだったからだいじょうぶだったよ!」


「ほらみなさい、 寂しかったのはあなただけよ。久しぶりねウル、ちゃんと稽古してた?」



 フィテロはテンテンから下りて、エリーシャにジトっと非難の目を向けたあと、ウルティナに声をかけた。



「フィテロおねえちゃん、ひさしぶり! ウルひとりでも、ちゃんとごーれむさんとけいこしてたよ!」


「あら、それならよかったわ。今日もビシバシいくわよ!」


「うん! ウルがんばる! あ、そうだ。これ、フィテロおねえちゃんとテンテンにあげるね!」



 ウルティナが手渡したそれは、フィテロ達の到着を待ってる間にコネコネと作っていた人形だった。中々にいい出来だったので、プレゼントすることに。



「あらあら。これは私とテンテンね。よく出来てるわ、ありがと!」



 可愛い教え子が自分の為に作ってくれたかと思うと、なんとも嬉しいものだ。



「――――って、あら? これって魔粘土、よね?」



 貰った人形に触れた瞬間、フィテロはすぐにそれが普通の粘土ではなく、魔粘土で作られたものであると気付いた。



「そうだ。妾が魔力の扱いを教えるのに与えたものだ。ちなみにだが、妾とメリィの人形もあるぞ。妾の人形はお前のよりも少し出来がいいがな!」



 謎の対抗心を燃やすエリーシャ。



「いや、変に張り合ってこなくていいから。っていうか、これ本当にウルが作った、のよね?」



 フィテロは自分の姿をした人形とウルティナを交互に見る。



「うん、そうだよ! ほかにもいっぱいつくってあるから、あとでみせてあげるね」



 家にいる間、ウルティナは結構な割合で魔粘土を触っている。そして出来上がった作品達は、エリーシャの手によって、大切に保管されている。最近ではウルティナの作品を飾る用の部屋を作ろうかと検討中だ。



「…………この歳でここまで魔粘土を弄れるなんて。正直驚きを隠せないわね。最強種の子供でも、ここまで出来るのは一握りよ?」


「ふ、だから言ってるだろうが。ウルちゃんは天才なんだ!」


「これだけ魔粘土を扱えてるってことは、もしかして魔法も使えたりするのかしら?」



 魔粘土で人形をここまで精巧に仕上げるには、相当魔力の扱いに長けていなければ難しい。フィテロの疑問は当然と言えば当然だった。



「ふふ、ウルちゃん。こいつに見せてやってくれ」


「うん、いいよ~!」



 ウルティナが両の掌を空に向けて、叫ぶ。



「《始まりの火ふぁいやー》 !!!」



 勢いよく飛び出した燃える炎の塊はある程度の高さまでいくと、エリーシャが張った結界にぶつかって、プシューと音を立てて消失した。



「――――どうだった、フィテロおねえちゃん?」



 Bランク程度の魔物なら倒せてしまいそうなウルティナの魔法を見て、フィテロは口を開けたまま固まっていた。



「え、あ、ああうん! 凄かったわよ!」



 エリーシャがことあるごとに、ウルティナを天才天才と褒めていた理由の片鱗を見た気がした。決して親バカだからとか、そんな理由だけではなかったのだ。



(ウルって人間族、よね?? 生まれつき魔法を使えるっていわれてる龍神族ですら、この歳でこれだけの威力の魔法が使えるかわからないわよ? それなのに………この子、本気で天才なんじゃないかしら? それも、かなりの才能を持った)



 人間族であるウルティナが魔粘土をまるで普通の粘土のように扱い、これほどの魔法を放つというのはフィテロを驚愕させるには十分過ぎた。


 それほどに、人間族というのはこういった芸当ができる種族ではないというのが、この世界では当たり前の共通認識だからだ。



「ウルちゃんは他にも、基礎魔法ならだいたい使えるぞ!」


「……嘘でしょ?」


「うそじゃないよ~! みててね!!!」



 《始まりの火ファイヤー》に続き、次々と魔法を放っていくウルティナを見て、フィテロはただただその場で呆然と立ち尽くしていた。


 そんなフィテロに畳み掛けるようにして、エリーシャはウルティナが既にダンジョンで魔物を倒した経験もあると、自慢話を誇らしげに聞かせるのだった。


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