秘密
「じゃん! これがウルのはたけなの! さっきフィテロおねえちゃんがたべたのは、このトマトだよ。ほらみて、ぷりぷりにそだってるでしょ?」
昼食を食べ終えたウルティナはフィテロに庭の菜園を案内していく。
テンテンとメリィもその後ろを、仲よさげにじゃれ合いながら歩いている。最初の険悪な雰囲気はもうなく、すっかり和解した様子だ。
「へぇ、どれも美味しそうに育ってるわね!」
フィテロはウルティナが次々と紹介していく野菜をまじまじと見て、素直に感心していた。
どの野菜も瑞々しくツヤがあり、周囲に雑草も少ない。この菜園がこまめに手入れされているのは一目瞭然だった。
「でしょ! それでこれがきゅうりで――――あっ!! またむしさんにかじられてるっ! もう!!!」
自分の育てた野菜を紹介していくウルティナだったが、その最中、きゅうりに齧りつく虫を発見して頬を膨らませた。
せっかく大事に育てても、虫に食べられてしまっては意味がない。
ウルティナも頑張って定期的に虫を取り除いているとはいえ、流石に全ての野菜を虫から守るのは難しい。幼いながらも、ウルティナはこの虫による被害に頭を悩ませていた。
「あらあら、せっかく美味しそうに育ってたのに、残念ね」
「ウルもね、おやさいをたべられないようにメリィといっしょにむしさんをぽいってしてるの。でもね、ときどきこうしてたべられちゃうんだ……」
虫食い状態のきゅうりを悲しそうに見つめるウルティナ。
「それなら今度いいものを持ってきてあげるわ」
「いいもの?」
「ええ、今のウルにはとてもいいものよ! 次来たときに持ってくるから楽しみにしてなさい」
「え~なんだろ? たのしみにまってるね!」
「きっと喜ぶわ。ほら、次の野菜を見せて」
「うん!」
虫を掴んでポイっと除けたあとで、再びウルティナは菜園の案内を再開するのだった。
◆
「で、お前はウルちゃんになにを持ってくるつもりなんだ?」
「――――えーっ!? なにか言ったかしら? てか、あなたちょっと速すぎよ! 会話したいなら、もう少しスピードを落としてちょうだい」
獣道を疾走するエリーシャと、そのあとを追うフィテロとテンテン。現在は終わりの森からの帰り道。
SSSランクの魔物に遭遇したら堪ったものじゃないという理由で、前回からこうして森の出入り口までエリーシャが送り迎えをしている。
とは言っても、物凄い速さで先行するエリーシャをテンテンに跨がったフィテロがなんとか追いかけている感じだが。
「まったく、仕方ないな」
エリーシャは少しスピードを落として、フィテロの横に並んだ。
家で留守番をしているウルティナのもとに早く戻りたい一心で、急ぎすぎていたようだ。
「速すぎなのよ! で、何か言ったかしら?」
並走する形になったことで声が聞き取れるようになったので、先ほど言っていたことを再び聞き直す。
「なにかウルちゃんにあげる約束をしたのだろう? 凄い楽しみにしてたぞ」
「ああ、そのことね。安心して、多分ウルも喜んでくれるわ」
「いや、妾はそれがなんなのか聞いているんだが?」
「そんな大したものじゃないわよ。まぁ見てからのお楽しみね」
「そうか。――――ふふっ」
途中、なぜかエリーシャは控えめに笑い声を漏らした。
「ん、急に笑ったりしてどうしたのよ? ちょっと不気味よ?」
フィテロは今の会話を思い返してみる。笑う要素なんてあったかしらと。
「な、不気味とは失礼な!」
「だって急に笑うんだもの。で、なんで笑ったの? 私なにか面白いことでも言ったかしら?」
「いやそんなことはないが。ただ……お前にウルちゃんの稽古を頼んでよかったなと思っただけだ。最近はウルちゃんがいつにもまして楽しそうだからな」
「ああ、そういうことね」
「今日で二回目の稽古だったが、お前から見てウルちゃんはどうだ? 可愛いだろう? 天才だろう? 可愛いだろう?」
「本当……親バカね。まぁさっきも言ったけど筋はいいし、才能はあると思うわよ。教えたことはすぐ覚えるし、いい動きもする。何より素直で可愛いわ」
「そうかそうか! 妾はそれを聞けて満足だ」
エリーシャはフィテロの答えに何度も相槌を打つ。
「それはそうと、話は変わるんだけど。近いうちに私の妹を連れてきてもいいかしら? ウルと年齢も近いし、いい刺激にもなると思うのよね」
「ん? 別に構わないが。お前に妹がいたとは初耳だな」
「これがまた生意気なのよ。まぁそこが可愛くもあるんだけど。ウルも年齢が近い友達がいた方がいいでしょ?」
「それは確かにそうだが…………」
いずれはウルティナを学校に通わせる予定。その前に歳の近い友達を作っておくというのは、学校生活でも役立つに違いない。
この提案はエリーシャにとって願ってもないことだった。
だが、今はそれ以上に気になる疑問が頭にふっとわいた。
「お前…………今何歳なんだ?」
フィテロの見た目はいってても20前半くらいにしか見えないが、そもそも歳の取り方は種族によって様々なので、あまりあてにはならない。
しかし直接戦ったからこそわかるが、フィテロには並外れた強さと威厳、風格が備わっている。
いくら最強種の一角を担う鬼神族といえど、これほどまでになるにはそこそこ年を重ねているはずと思っていたのだが。
そんな考えを巡らせていると、フィテロが口を開いた。
「――――んふふ。それは秘密よ!」
ペロッと舌を出して、片目をパチッと閉じ、頬に人差し指を添えて。
「……殴っていいか?」
「駄目に決まってるでしょ」
こめかみに微かに青筋を浮かび上がらせつつ、道を急ぐエリーシャだった。
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