サンドイッチ



「――――それでね、フィテロおねえちゃんはすっごいの! ウルがどんなにこうげきしてもね、こう、ぱって、よけられちゃうの!」



 夜、ウルティナが楽しそうにフィテロとの稽古のことをエリーシャへと話す。


 少し離れていたとはいえ、エリーシャも二人のことを見守っていたので、だいたいのことはわかるが、それでも娘の口から直接聞くとまた違った感覚を覚える。

 なにより、エリーシャはウルティナとこういう話をする時間が堪らなく愛おしいのだ。



「ふふ、そうかそうか。次はきっと攻撃を当てれるようになるさ」


「うん! ウルがんばる! つぎはフィテロおねえちゃんとテンテンいつきてくれるのかなぁ?」


「またすぐ来てくれるように、妾から言っておこう」



 ウルティナはフィテロとの稽古が楽しかったようで、また早く会いたいとウズウズしていた。



「たのしみだなぁ~、フィテロおねえちゃんすっごくつよいんだもんっ!」


「……ウルちゃん、ちなみにだが」


「ん、なぁにママ?」


「わ、妾はフィテロよりもずっと強いんだぞ?」



 エリーシャは言っていて、自分でも少し恥ずかしくなる。


 こんなこと自分で言うことではないのはわかっているのだが、ウルティナがあまりにもフィテロの話ばかりするものだから、親として少し嫉妬してしまったのだ。



「え~っ!!! フィテロおねえちゃんよりもずっとつよいのっ!??」


「ふ、そうだ。妾が本気になれば、フィテロなんてちょちょいのちょいなんだぞ?」


「やっぱりママはすごいんだねっ!」



 娘にキラキラとした尊敬の眼差しを向けられ、恥ずかしい気持ちなんてどこへやら。自然と口元が緩むエリーシャだった。




 ◆


 フィテロとの最初の稽古から数日後。



「――――ん~、えいッ、や、とぉッ!!!」


「いいわよウル! 動きに無駄がなくなってきてるわ。けど――――」



 中々タイミングが合わず少し間が空いてしまったが、本日は二回目の稽古だ。


 初日には攻撃をすることすら戸惑っていたウルティナだったが、フィテロの実力を肌で感じて、もうその攻撃に迷いは一切なかった。

 今日こそは意地でも攻撃を当てて見せる、そんな気概で望んでいた。

 しかし、



「――――足下ががら空きよ!」


「わ、わわわっ!?」



 ウルティナはフィテロの足払いに反応することができず、いとも簡単にコテンと地面に転がされてしまった。



「攻撃ばっかりに意識を集中してちゃ駄目よ。どんなときでも、相手からの攻撃には注意しないと。例え自分がどれだけ優利な状況でも、それだけは忘れないこと。いいわね?」


「うぅ~、わかった。つぎはきをつけるの!」



 めげることなく、ウルティナはすぐに立ち上がり、フィテロに向かっていく。

 物言わぬ魔導土人形ゴーレムとの勝負より、こうやって駄目なところをその場で的確に指摘してくれるフィテロとの稽古の方がウルティナには合っているようで、ちょくちょく質問を挟んだりしながらとても前向きに励んでいた。



「さて、そろそろお昼休憩にしましょうか」


「うん! ウル、おなかぺこぺこだよ~」



 朝からずっと動きっぱなしだったウルティナのお腹からは、ぐぅ~と大きな音が鳴っていた。



「あは、凄い音。まぁ頑張ってたものね。ほら、あっちでエリーシャがお昼の用意してるわよ」


「あ、ほんとだ! ――――ママ~!」



 母の元へ駆けるウルティナ。庭で昼食の準備をしていたエリーシャは稽古を頑張った娘を笑顔で迎えた。



「おおウルちゃん! お疲れ様だ。ずっと見てたが、凄い頑張ってたな」


「えへへ~、でもね、きょうもフィテロおねえちゃんにこうげきあてられなかったの」


「そうか、でも大丈夫だ。ウルちゃんならすぐにフィテロも倒せるようになるさ」



 エリーシャは相変わらずの甘さで、ウルティナの頭を撫でる。



「まったく、そんな簡単に倒せるようになられちゃ堪らないわよ! まぁでも、確かにウルは凄い頑張ってるし、筋もいいけどね」



 軽く愚痴りつつもウルティナの頑張りを認めたフィテロは、エリーシャが用意していた昼食のサンドイッチを口へと運ぶ。



「ふふふ、そうだろうそうだろう。ウルちゃんは凄いからな!」



 娘を誉められ、エリーシャは誇らしげにどや顔で答える。

 今ならどんなお願いでも聞いてくれそうなほどに上機嫌だ。



「ていうか、このサンドイッチ…………美味しいわね! 特に、この挟んである野菜が最高だわ!」



 好みの味だったのか、フィテロはサンドイッチを一つ二つ三つと、次々と平らげていく。



「フィテロおねえちゃん! おやさいがおいしいのっ!!?」



 そこにいち早く反応したのがウルティナだった。



「ええ、とても美味しい。瑞々しくて新鮮で、シャキシャキしてるわ」


「えへへ、それね、ウルがそだてたのっ!!!」



 自分で育てた野菜を美味しそうに食べてもらえて嬉しくないはずがない。ウルティナは満面の笑みでフィテロに話す。



「これは驚いたわ。ウルは野菜を育てるのが上手なのね!」


「あとでフィテロおねえちゃんにも、ウルのそだててるおやさいをみせてあげる!」


「それは楽しみね! あとで案内してちょうだい」


「うん! まかせて!」



 早く畑を見せたくて仕方ないのか、ウルティナはフィテロにも負けない勢いでサンドイッチを頬張っていく。


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