魔物倒しました
初級ダンジョン『アイウーラ』に足を踏み入れて数十分が経った頃、
「いやぁ~、ぶにぶにがおいかけてくるのぉっ!」
そこには濃い青色をしたゲル状の魔物『
この魔物は『掃除屋』という名の通り、死んだ魔物を食してダンジョン内を綺麗にしてしまうことからそう呼ばれている。
色や形は異なるものの、『初級』から『超級』までのどのダンジョンにも生息する、最もポピュラーな魔物と言えるだろう。
「――――あれ? でも、そんなにはやくない?」
ズルズルと地面を這いながら迫ってくる
最初は全力疾走で逃げていたウルティナだったが、それに気付いてからは時折後ろをチラチラと振り返る余裕も生まれていた。
「ウルちゃん、逃げてばかりではいずれ体力がつきてしまうぞ。攻撃しなければ、やられるのは妾達なのだ」
少し離れた場所で見守るエリーシャとメリィ。
今回は相手が害の少ない
「メェ~……」
しかし、そんなことを知らないメリィは逃げるウルティナを見て心配そうに鳴く。
何度か助けに行こうとしたが、その度にエリーシャに止められていた。
「えいっ!《
ウルティナの指先から、バチバチと紫電が走る。
紫電はジグザグと空間を震わせながら、敵に向かっていく。
それが見事直撃すると
ぷしゅーと煙をあげる
「……もう、うごかない?」
遠くから恐る恐る近付くウルティナ。
「凄いぞウルちゃん! 一人で魔物を倒せたではないか」
そんなウルティナの元へ走っていき、頭を撫でるエリーシャ。
いくら害のない魔物とはいえ、逃げる娘の姿を見るのは心に響く。
本当はメリィと同じく、すぐに助けたい気持ちにかられていたエリーシャだったが、娘の成長の為に何とか堪えていたのだ。
「えへへ、ちょこっとだけこわかったけど、ウルがんばったよ」
「うむ、本当によくやった。だがこれから進む先には
まだダンジョンに入って一時間も経っていないにも関わらず、エリーシャは娘にそんな提案をした。
エリーシャ的には魔物を一体倒せただけでも、今日は十二分に成果があったのだ。
二年前に魔物を倒す所を見せて大泣きしていた頃を思えば、かなりの成長だ。
「う~んとね、ウルはまだへいきだよ、もっといってみたい」
初めての魔物との戦闘を終えたばかりだが、ウルティナに疲れた様子はない。
「そうか。じゃあもうちょっとだけ進むとしよう。疲れたりしたらすぐに言うんだぞ?」
「はぁい!」
もっと奥には何があるのか、どんな魔物がいるのか。
多少の恐怖はあるものの、ウルティナは好奇心に導かれるままに更に奥へと進んでいく。
◆
「あっ! ママみて、あれってたからばこだよねっ?」
そう言いながらウルティナが指差したのは、大人が数人入れるかどうかといった狭い空間に不自然に置かれた宝箱だった。
宝飾品が散りばめられた豪華な宝箱。
「いまよんでるほんにね、たからばこがでてくるの! はこのなかにはたからものがいっぱいなんだよ!」
今日一番の笑顔で、興奮気味に宝箱の方へ走っていくウルティナ。
「ちょ、ちょっと待つのだ、ウルちゃん!?」
だが宝箱へとたどり着く前に、慌てた母によって抱き止められてしまった。
「ふぅ……危なかった」
「ど~したの? たからばこだよ?」
何故止められたのかわからないウルティナは、キョトンと腑に落ちないといった表情を浮かべている。
「あれは宝箱じゃなくて魔物なんだ。よく見てるんだぞ?」
ウルティナをメリィの背に乗せ、エリーシャは一人で宝箱へと近付いていく。
そして、躊躇なく宝箱へと触れた。
すると、勢いよく宝箱がひとりでに開いた。
その開かれた箱の中には、鋭い刃物のような歯がぎっしりと生え揃っていて、縁からは涎がダラダラと溢れ出ている。
宝箱と思われたそれは『
宝箱を装って近付いた者を襲う習性を持つが、近付きさえしなければ襲ってくることはないので、知識があれば避けられる敵ではある。
だが初級ダンジョンにくるような者は駆け出し冒険者が多いので、この魔物による犠牲者はそれなりの数に上る。
「――――ママがたべられちゃったぁっっ?!」
両手を頬に当てて叫ぶウルティナに対して、
「大丈夫だウルちゃん。心配は無用だ」
冷静に答えるエリーシャ。
手を噛まれてるが、まったく気にした様子はない。
「爆ぜろ」
エリーシャがそう告げると、瞬く間にブクブクと膨張していく宝箱。
そして膨張がある一定まで達した時、
「いいかウルちゃん、ああいう魔物もいるから油断しないようにするんだ。ダンジョンではとにかく常に周囲に気を配りつつ、あらゆることを疑うんだ」
ウルティナの方に戻りながら、指を立ててダンジョンについて説くエリーシャ。至近距離で爆発したにも関わらず、体には傷ひとつない。
「ママ、おててだいじょうぶなの?」
ウルティナは母の噛まれた右手を心配そうに見る。
「ふふ、大丈夫だ。初級ダンジョンで妾に傷を負わせられるような魔物など存在しないさ」
そう言って、無傷の右手をヒラヒラと娘に見せて笑いかける。
「よかったぁ、おててがなくなったらたいへんだもんね」
「ああ、ウルちゃんをいいこいいこできなくなるからな」
「ウル、ママになでなでされるのすき!」
「そうか、よしよし」
期待に応えるようにエリーシャはウルティナの頭を撫でる。
「えへへ、じゃあこのままきをつけてすすむよ〜」
先ほどのエリーシャの言葉をきちんと頭に入れ、ウルティナは再びダンジョンを進んでいく。
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