ダンジョンへ
ダンジョンに行く日の朝、ウルティナは起こされる前に自分で目覚めた。
「んんぅ……あれ、ママ?」
いつも起きると横にいるはずの母の姿はなく、ベッドにはメリィがいるだけだった。
「おお、起きたかウルちゃん。おはようだ」
娘の声に気付き、隣の部屋からエリーシャが姿を見せた。
「あ~、ママのめに、またくまさんが!」
「ふふ、昨日はこれを作っていたのだ」
そう言うエリーシャの手には、ダンジョン用の服が一式。
ダンジョンに行くのに、街に着ていくようなヒラヒラとした服という訳にはいかない。
なので昨夜はずっとこの服を作る為の作業をしていたのだ。
「わぁ~、なにそれぇ、かっこいい」
「これはウルちゃんが魔物に攻撃されても大丈夫なように、妾が徹夜して作ったダンジョン用の服だ。――――どれ、妾が着せてやろう。こっちに来てくれ」
「うん!」
今着てる服を脱ぎ捨てながらパンツ一枚の状態で母の元へ急ぐウルティナ。
エリーシャは早速できたばかりの服を着せていく。
「ふむ、やはりよく似合ってるな。頑張った甲斐があった」
「ウル、かっこいい?」
白と黒の斑模様の毛皮をベースにした服を上下に纏い、クルリと一周回って見せるウルティナ。
腰には小物を入れる用に、ポーチも付いている。
「うむ、カッコカワイイぞ! ウルちゃん冒険者モードだな」
「えへへ、これでウルもぼうけんしゃなの!」
この毛皮は、終わりの森に生息するSSランクの魔物『
しかも打撃だけではなく魔法にも有効で、並大抵の攻撃じゃ食らったことにすら気付かないという。
「えへへ~、みてメリィ。ウルもメリィとおなじでふわふわだよぉ~」
「メェ~!」
SSランクの、しかも防御に特化した魔物
この魔物を倒せるのは、世界に存在する一握りの強者だけだろう。
それ故に、この毛皮が市場に出回ることはほぼないと言える。
だがそんな貴重な物だなんて知る由もないウルティナは、服を着たままでメリィに抱きつき、無邪気にはしゃいでいるのだった。
「これで準備は整ったな。ご飯を食べたら出発だ」
「お~!」
「メェ~!」
メリィと戯れていたウルティナが、小さな拳を突き上げた。
◆
「さぁ着いたぞ。ここが『初級』ダンジョンだ。名前は確か『アイウーラ』だったか」
街に行く時と同じようにして《
ここは東の都エザリアより、さらに東に進んだ先にある荒野地帯。
その一角に不自然にぽっかりと空いた、横幅十メートル程の穴がある。
この穴こそが、初級ダンジョン『アイウーラ』への入り口だった。
「すご~い、おくがまっくらで、なんにもみえないよ?」
好奇心旺盛なウルティナは初めて目にするダンジョンにも物怖じせず、興味津々に穴を覗き込む。
「ウルちゃん、こういう時はどうする?」
何でも教えてしまっては為にならないと、エリーシャはまず娘に考えさせるような物言いをした。
「う~んとねぇ、まっくらだからぁ………………あっ!」
首を傾げながら考えること数秒。
「《
ウルティナがそう叫ぶと、指先からモワッとした光の玉が出現し、周囲を明るく照らした。
これは《
魔力で光を創り出し、辺りを照らす。籠める魔力の量で明るさを調整できる。
「正解だウルちゃん! よくわかったな偉いぞ!」
「えへへ、これでまっくらでもへいきだね」
魔法によって視界を確保し、入口の穴を進んでいく。
ダンジョン内の地面は普通の土っぽかったが、壁はゴツゴツとした硬そうな岩で覆われていた。
ウルティナは、階段状になっている地面を慎重にゆっくりと降りていく。
真剣な面持ちで、周囲を見渡しながら進んでいくウルティナを見て、エリーシャは感慨に浸っていた。
ただ泣くことしかできなかった赤子がここまで成長するとは。
そして、それを近くで見守れることにこんなにも幸せを感じるとは。
もし昔の自分が今の自分を見たらどう思うだろうか?
捨て子を拾い子育てをしてるなんて、きっと気でも狂ったかと思うかも知れない。
でも今のエリーシャは胸を張って、心の底から言える自信があった。
ウルティナに、娘に出会えて良かったと。
血の繋がりはないが、この子の為なら何を犠牲にしても構わない。
それくらいエリーシャは娘を溺愛していた。
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