学習



 エリーシャがウルティナに魔粘土を与えてから、数週間の時が経っていた。


 ウルティナはこの粘土遊びがかなり気に入ったようで、最近では暇さえあれば毎日コネコネと、一人で粘土を弄って遊んでいる。



「ママ、みてみて~!」



 ウルティナが何かを持って小走りで母の元へきた。その手にあったのは魔粘土で作られたであろう人形だった。



「むむ、これはもしかして…………妾とメリィ、なのか?」


「せいか~い! ねんどでママとメリィをつくってみたの! どうかなぁ~」



 その人形は決して店に売ってるような上手い物とは言えないが、メリィの角だったりエリーシャの尖った耳だったりと、しっかりと特徴を捉えていた。

 ちゃんとよく見て作ったであろうことが窺える。



「うむ、良く出来てるぞ。流石はウルちゃんだ」



 エリーシャは当初、ウルティナが魔粘土に慣れるまでは数ヶ月、長くて数年は掛かると思っていた。


 本来この魔粘土は、幼い子供が長い時間をかけて少しずつ魔力の流れを感じとれるようになる為に作られた物で、そんなすぐに扱えるようになるものではない。


 気長にちょっとずつ教えていくつもりだったのだが、驚くべきことにウルティナは、その日のうちに粘土をある程度自在に扱えるようになっていた。


 数週間経った今ではこの通り、母とメリィの人形を作れるまでに至っている。

 先日は粘土を紐状に長く伸ばして、それをピョンピョンと飛んで遊んだりもしていた。


 娘には相当甘いと自負してるエリーシャだが、これはその甘さを抜きにしてもかなり凄いことだった。



「でしょ~? ここのね、ママのおみみさんのところがたいへんだったんだ!」


「そうかそうか、だが本当に良くできてるぞ。頑張ったな」



 褒められて気をよくしたウルティナは粘土で作った人形を見せながら、どこがどう難しかったのかを一つずつ説明していく。


 うんうんと話を聞き、その度にエリーシャは娘を褒めちぎるのだった。




 ◆


「ママ、つぎはいつまちにいくの?」



 とある日の夕食時、ふとウルティナが口にした言葉にエリーシャの手が止まった。


 あの一件以来、極力街の話題は出さないようにしてきた。

 娘が嫌なことを思い出さないようにと。

 ウルティナもここ最近は街に行きたいと言わなくなっていたので、しばらくは行く予定はなかったのだが。



「ウルちゃん…………恐くないのか?」


「う~んとね、このまえはこわかったけど、ママとメリィがまもってくれたからへいき! またあまいのたべたいの!」



 どうやらエリーシャが少し考え過ぎていただけのようで、ウルティナは意外にも平気そうでケロッとしていた。



「そうか、じゃあまた近々行くとしよう」


「わぁ~い! まちにいくとね、いろいろなことがあってたのしいの」



 幼いウルティナにとっては、この前の恐怖よりも、街で楽しく過ごす時間の方が勝っていたようだ。



 それからは、首都ゾフィールからなるべく離れた街に何度も遊びに行った。


 あてもなくブラブラ散歩したり、屋台で売ってる美味しいものを気ままに食べたりして、ウルティナは毎日を楽しく過ごした。

 エリーシャもそんな娘を見て安心していた。


 そして家では粘土で遊ぶだけじゃなく、空いた時間に文字の読み書きの勉強も始めた。


 ウルティナは頭の出来がいいようで、教えたことはすぐに覚えて、絶対に忘れない賢い子だった。


 子供特有の吸収力で、次々と覚え学習していく。


 なので、街の看板に書いてある簡単な文字などはすぐに読めるようになっていた。



「あっ! あれみてママ「ぎるど」ってかいてある」



 いつものようにメリィの背中に乗って街を移動するウルティナが、とある看板を指差す。


 その建物には、剣や盾、槍等をもって武装した、様々な種族が入っていく。



「おお、大正解だ! よく読めたな、偉いぞ」


「「ぎるど」ってなに~?」



 字は読めてもどういった場所なのかは理解していないので、街を歩きながらもこうして質問していくのが最近では日課になりつつある。



「ギルドというのは、冒険者と呼ばれる者達が仕事を貰う場所だ。みんな仕事をしてお金を稼ぐんだ」



 小難しいことを言ってもわからないだろうと、簡単に説明する。

 実際は商人の護衛だったり、魔物討伐、ダンジョン攻略、アイテムの買い取り等々、細かく内容は分かれているが、それでお金のやり取りが発生してる以上、仕事といっても間違いではないだろう。



「ウルもおしごとしたいなぁ」


「ふふ、今のウルちゃんの仕事は、こうやって元気に妾の前で成長してくことだ。だからもう十分働いてると言えるな。ウルちゃんは働き者だ、偉いぞ」



 エリーシャは娘の頭を撫でながら答える。



「えへへ~、ウルは働き者なの!」



 日々を母と共に楽しく生き、ウルティナは少しずつだが色々なことを学習して着実に成長していった。


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