魔力量
――――就寝前。
「ウルちゃん、ちょっとこっちにきてくれ」
エリーシャが手招きすると、メリィとじゃれて遊んでいたウルティナは、「なぁに?」と言いながら、トテトテと愛らしく歩いてくる。
「どしたのぉ~?」
そろそろ寝る時間が近付いていたので、少し眠そうだ。
「さっきのお風呂での魔法のことなんだが」
あの場では自分の可愛い娘に、魔力と魔法適性があることに喜んで、天才だなんて騒いだが。
冷静になって考えてみると、何で魔法が使えたのかよくわからなかった。
というのも、魔力があったとして、そして運よく魔法適性があったとして、果たして人間族の三才児が誰にも教えられることなく魔法を使うことが可能なのか。
(龍神族の子供は生まれた瞬間から魔法を使える、なんて話を聞いたことはあるが…………ウルちゃんは人間族だぞ? こんなことがありえるのか? それとも本当にただの天才なのか!? いや、それはそれで嬉しいのだが)
「ウル、すごかったでしょ~?」
「ああ、もちろん凄かったぞ。流石、妾の娘だ。でも何で急に出来るようになったんだ?」
最初はお風呂の水面を手でバシャバシャと叩いてるだけだったウルティナだが、あの時から本人は魔法を使おうとしてた筈だ。
ならば何故最初はできなかったのか。
「う~んとね。ママのからだのなかがね、きらきらひかっててね、それでね、それをまねしたの!」
ウルティナは、身振り手振りで必死に説明しようと頑張る。
「それは本当か!?」
「もぅ、ほんとだよ~」
真偽を問われ、頬をプクりと膨らますウルティナ。
「すまないウルちゃん、疑ってるわけじゃないんだ。――――じゃあこれはどう見える?」
エリーシャは指先にボワッと、蒼白い拳大の炎を出現させて見せる。
「あ、またきらきらしたの!」
「そのキラキラはどんな感じなのだ?」
「え~とねぇ、ママのゆびにね、たくさんきらきらのひかりがあつまってるの! ぶわぁって!」
「なるほど。そういうことか」
「ママ?」
一人で納得したように頷くエリーシャを、不思議そうに見つめるウルティナ。
「ああ、何でもないんだ。要するに、ウルちゃんは凄いってことだ」
「えへへ~」
理由はわからないが、褒められたことを素直に喜ぶ。ウルティナはとにかく母に褒められるのが好きだった。
(まさかウルちゃんが魔力を視ることができるとはな)
珍しいとまでは言えないが、他者の魔力の流れを視認できる者がいる。
先ほどのお風呂での出来事は、ウルティナがエリーシャの魔力の流れを見て、真似たことによってできたことだったのだ。
だが、いくら魔力の流れを見ることが出来るといっても、それを見よう見まねで思うように操れるかはまた別問題である。
エリーシャが天才と言ったのも決して言い過ぎではなく、ウルティナに魔法の才能があるのは間違いないようだった。
(しかし人間族の子が魔力と魔法適性を持ち、それに加えて魔力を視認できるとは……いったいどれだけの確率だろうな)
エリーシャはふと考える。
エルフよりも上位の種族ですら、魔力を視認できない者は珍しくない。それを人間族のウルティナができるなんて、どれだけの幸運が重なったのかと
(まぁこんなこと考えてもしかたないな。そんなことよりも今は)
「そろそろ眠るとしようか、ウルちゃん」
あくびをしながらウトウトと眠そうにしてるウルティナと一緒にベッドに寝転ぶ。
「うん、ねる! おいでメリィ」
「メェ~」
ウルティナが呼ぶとメリィもベッドに潜り込んでくる。
「ウルちゃん、ちょっと手を出してくれ」
「はぁい」
差し出された小さな手を、そっと優しく握るエリーシャ。
無論、手を握ったのには理由があった。
(フム、どれどれ――――)
ウルティナに魔力が宿ってることはわかったので、今度はどれくらいの魔力量なのかを確認しようとしていた。
エリーシャほどのレベルにもなれば見ただけである程度のことはわかるが、ここはSランク越えの魔物が平然と現れる『終わりの森』。
周囲にも当然のように魔力が満ちている為、直接触れでもしないと正確な判断に欠けてしまう。
(んんん!? 何なのだこれは!? これではまるで――――――)
エリーシャがウルティナから感じとった魔力量は、人間族のそれを遥かに凌駕していた。
それこそ、至高の種族と称される【神】の名を冠する者達。
今ウルティナから感じる魔力量は、それらの種族と比べても遜色ないくらいのものだった。
「んふふぅ~……ママだいすきぃ……」
そんな母の驚きなど知らずに、街でハシャギ過ぎて疲れたのか、ウルティナはベッドに入った途端に幸せそうな顔で眠ってしまった。
「ふふ、可愛い寝言を言ってくれる」
すっかり夢の中にいる愛娘に、
「妾も愛してるぞ」
そう言って、額にキスをしてエリーシャも眠りにつくのだった。
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