狩り



「ママ~、つぎはいつまちにおでかけする?」


「そうだな、近いうちにまたお出かけするとしよう」



 初めて街に行った日から数日。


 余程楽しかったのか、ウルティナはことあるごとにこの質問をしていた。



「わぁ~い、やくそくだよ?」


「もちろんだとも。妾がウルちゃんとの約束を破ったことがあるか?」


「ん~とねぇ、ない!」


「そうだろう。妾はウルちゃんとの約束は死んでも守るからな」


「たのしみ~」


 パチパチと両手を打ち鳴らし、はしゃぐウルティナ。


「それと今日はこの前言った通り、違う魔法を見せよう」


 先日、お風呂で水の龍を創り出した時、今度はもっと凄い魔法を見せると約束したことをふと思い出したエリーシャは、森での狩りにウルティナを同行させることにした。


「わぁい、それもすごいたのしみ!」


 街でリィナの魔法を見てからは、魔法にも興味津々だ。



(魔法を覚えるなら若ければ若い程いいというからな。魔物の肉もちょうどストックがなくなった所だったし、ちょうどいいな)



 普段は魔物を狩りに行く時は、家にウルティナとメリィを残して一人で行っていたが、今日はそういった理由もあり、皆で狩りへと向かうことに。




 ◆


 家を魔物から守る為に張った結界を出てすぐ、



「いいかウルちゃん、結界の外は他の危険な魔物もいるからメリィのそばを離れないようにな」


「はぁい! よろしくね、メリィ」


「メェ!」



 森の中は危険なのでエリーシャはウルティナをメリィの背に乗せたあと、自分はその前を先導するように進んでいく。



「よし、ではさっそく獲物を探すとしよう――――」



 エリーシャは森の中で目を閉じ、周囲の魔力を感じとることに集中する。その間わずか数秒。



「――――ふむ、1番近いヤツはあそこか。少し速くするぞ、ちゃんとついてくるんだぞメリィ!」


「メメェ~!!」


「わわっ、ママもメリィもはや~いっ!」



 見つけた魔物を目指し、生い茂る木々を物ともせずに森を駆けていく。

 エルフは森での生活に長けた種族ではあるが、この危険な森をこれだけの速さで素早く移動できるのはエリーシャの実力あってこそだ。



「よし、止まれ」


「メェ」



 進むこと数分、風の如く駆けていたエリーシャがメリィの前に右手を出し静止の合図をした。



「これからヤツを狩る。ウルちゃんとメリィはここで待っててくれ」



 小声でそう言うエリーシャの視線の先には一体の魔物が、ちょうど地面の窪みに溜まった水を飲んでる所だった。

 まだエリーシャ達に気づいた様子はない。


 この魔物は『魔猪王キングエーバー』という猪の魔物で、ランクはS。


 終わりの森では一番数が多い魔物だ。

 下顎から伸びた異常に発達した頑丈な牙は岩でも木でもなんでも破壊してしまい、この魔物を象徴する部位でもある。


 大人になると我王牙キングヴォルフにも負けないくらいの巨躯になるが、今眼前にいる魔物はメリィよりも少し大きいくらいだった。

 大きさ的に、まだ子供のようだ。


 気づかれないようにそろりそろりと、ゆっくり背後から近付いてくエリーシャだったが、


 何者かの気配を察知した魔猪王キングエーバーが水を飲むのをやめ、顔を上げた。


 次の瞬間。


 ――――――ブモオォッッ!!


 激しい鳴き声を上げ、その場から逃げ出してしまった。


 魔猪王キングエーバーはSランクの魔物ではあるものの、この森ではどちらかと言われると狩られることの方が多い非力な部類に入る。そんな魔猪王キングエーバーだからこそ敏感に感じ取ってしまったのだ。

 自分の前に現れた女エルフの、異常なまでの強さを。



「ちっ、逃がすものかっ! 《太古の魔刃ハルパー》」



 エリーシャが腕を振り魔法を放つ。

 全てを斬り裂く、湾曲した複数の鋭利な魔力の塊。

 本気になれば空間すら斬り裂く、エリーシャの得意とする魔法の一つだ。


 迫りくる魔刃に対抗するため魔猪王キングエーバーは魔力を体に集め、防御に徹した。


 本気で守りに入った魔猪王キングエーバーの表皮は黒く変化して、鉄をも上回る強度になる。


 その固さは時に、格上の魔物も諦める程の防御力を誇る。


 だが、今回は相手が悪かった。


 エリーシャの放った魔刃は、魔猪王キングエーバーの防御をなんなく突破し、いとも簡単にバラバラの肉塊へと変えてしまった。



「ふん、妾から逃げることなどできんのだ。自らの運のなさを悔やむがいい――――さて」



 狩った獲物を嚢に詰め込み、愛する娘の元に戻るエリーシャだが、



「どうだ、ウルちゃん。妾の魔法は? 凄かっ――――」



 ――――凄かっただろう?



 そう聞こうとしたエリーシャの目に映ったのは、



「うわぁぁぁぁぁぁんっっ、ママが、ママがぶたさんころしちゃったぁっっ」



 号泣するウルティナの姿だった。


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