三年後



「ママぁ~、みてみて。おやさい! いっぱいとれたよ」


「おぉ、凄いぞウルちゃん。今夜はご馳走だな」



 顔や体の至る所に泥をつけながら、ウルティナが家に帰って来た。


 両手で大事そうに持つ四角い籠には、沢山の山野菜が入っている。


 時が経つのは早いもので、エリーシャがウルティナを育て始めてから三年の月日が流れていた。


 身長はまだエリーシャの膝ぐらいしかないが、くりくりとした目が特徴的な、大変可愛らしい子に成長していた。


 言葉も舌足らずなところは多少あるが、問題なく喋ることができる。


 今は家の周辺に生っている、山野菜の収穫から帰って来た所だ。



「えへへ~、ウルえらい?」



 エリーシャに褒めて貰いたい気持ちが焦ったのか、ウルティナは泥まみれのまま無邪気に抱きつく。



「ああ、えらいし、凄いぞ。流石、妾の娘だ」



 自らが泥に汚れるのも気にせず、エリーシャは我が子を抱きしめ、頭を撫でた。



「えへへ、メリィがね、おやさいのばしょをおしえてくれるの」


「そうかそうか。メリィ、お前もご苦労だったな」


「メェ~」



 ウルティナの後から家に入ってきたメリィにもエリーシャは労いの言葉をかけた。


 子育てを始めてからこの家の周辺には、エリーシャが魔法で結界を張ったので、Sランク越えの魔物が出る危険な場所でも安心してウルティナを遊ばせられる。


 それに万が一の時にはSSSランクの魔物でもあるメリィが一緒なので、二重の意味で安心だ。



「ママ、おなかすいたぁ」


「そうだな、ご飯にするか。だがその前に――――お風呂が先だな」


「わ~い、おふろおふろぉ。メリィもいっしょ~」


「フフ、では皆で洗いっこだ!!」


「あらいっこ~!!」


「メェ~~」




 ◆


 そしてお風呂から上がって、夕食時のこと。



「うむ。そろそろ頃合いかもしれないな」


「ママ、どしたの?」


「ウルちゃん、明日はママと街にお出かけだ」



 それはエリーシャが前々から、考えていたことだった。


 いずれはウルティナを学校に通わせようと思っていたので、その為にまずは、自分以外の種族や街並み等を見せておきたかった。


 ウルティナはまだエリーシャ以外の者にあったことはないし、森の外にも出たことはない。


 だからそうやって少しずつ、慣らしておこうと。



「やったぁ、おでかけだ!!」



 以前から街のこと等をエリーシャから聞いていた為、ウルティナは大はしゃぎだ。



「メェ~!!」



 メリィも嬉しそうに鳴く。



「メリィ、お前は留守番に決まってるだろうが」


「メメッ!?」



 自分もウルティナと一緒に行けるものとばかり思っていたメリィは、驚きの鳴き声を上げた。



「逆に何でついてこれると思ったのか不思議なんだが……」



 一般的にはSランクの魔物ですら、一体いれば小さな村が数日で壊滅するといわれている。


 SSSランクの魔物が街に入ろうものなら、たちまち衛兵や冒険者達に囲まれてしまうだろう。


 もしくは皆逃げ出すかもしれない。


 SSSランクの魔物というのは、大国が総力をあげてもどうなるかわからないほどの怪物なのだ。



「えぇ~……メリィだめなの?」


「ああ、メリィは妾達には懐いているが、一応魔物だからな」


「そんなぁ……」


「メェ……」



 どんな時も一緒に過ごしてきたメリィが一緒に行けないと聞いて、一気に暗いテンションになるウルティナ。メリィもしょんぼりとしている。



「ママ、おねがい。ウルもメリィもいいこにするから」


「メェ……」



 大きなお目々に涙をうるうると浮かべながらの、ウルティナのお願い。


 心なしか、メリィまでウルティナの横で目をうるうるとしてるように見える。



「はぁ…………仕方ない」



 娘にそんな顔をされては敵わないと、エリーシャはあっさり折れた。


 可愛い娘のお願いを断りきれなかったのである。



「まぁメリィも姿なら問題ないか。魔力は妾が遮断しておこう」



 本来『神山羊エアレー』とは『我王牙キングヴォルフ』すら上回る程の巨躯の魔物だ。


 メリィも元々はその巨躯のまま過ごしていたが、エリーシャと一緒にいるようになってからは今の姿を保っている。


 エリーシャの家で住むには、この普通の山羊くらいの体躯が丁度いいのだ。



「やったね、メリィ。あしたはいっしょにおでかけだよぉ~」


「メメメェ~」


 小さな手で、メリィをわしゃわしゃと撫でるウルティナ。メリィもそれに答えるように嬉しそうに鳴くのだった。


 この光景を見たら、誰もメリィがSSSランクの魔物なんて思わないだろう。


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