第九百二十二話 ベルベディシア対ヤトカーン!? 

 ブチ切れモードのベルベディシアは、怒りに震えつつ全身から雷撃を迸らせる。

 当然近くにいるだけで危険極まりないので、俺もアイジャックという獣人もその場か

ら避難して瓦礫の影に隠れた。


「それくらいの電撃があれば壊せるかなぁ。ほら、私はここだよ。良く狙ってねー」

「何を仰っているのかしら。あなたの墓標はそこでよろしいのですわね? せめて辞世の句

位は読ませてあげても良いですわ」

「んーとね。もう少し角度を鋭く放ちなさい? これ、辞世の句であってる?」

「雷閃光、血種魔古里の掌!」

「はい。合格点!」


 ベルベディシアの必殺技の中でも直線的かつ広範囲に攻撃する技だ。

 まき上げた血しぶきが全て放電し攻撃対象を襲う恐ろしい技。

 ……本気で殺しに掛かってる。

 相当ご立腹なようだ。だが……ヤトカーンと名乗る女は背中辺りから黒い

台形を逆さまにした形の大きなものを正面に出すと、放たれた電撃の角度が変えられ別の場所に

電撃が向かう。

 

「あれは……ノード黒霊鉱か?」

「姉御ぉ。幾ら姉御でもそこの姉さん相手にするのは危ねぇですって。止めてくだせぇ!」

「ベルベディシア、少し落ち着けって……ってあれ」

「目が回りますわぁー……」

「ほらほら、もっと電撃を吸い出すよー。まだまだ全然まだまだ足りないから、ほらもっと。

頑張れおばさん!」

「口惜しい、ぶち殺して差し上げますわぁ……雷閃光、血種魔古里の掌ぅ……」

「……どうやら平気みたいだ。いや、平気じゃなくなるだろうけど」

「みたいだなぁ。しかし恐ろしい電撃を使う姉さんもいたもんだ」

「あの盾はなんなんだ? やっぱりノード黒霊鉱で作られたアーティファクト?」

「あんさんは妖魔なのに俺たちのことを知らないのかい?」

「あ、ああ。俺は妖魔でも変わり者で。色々教えてくれると助かるんだけど」

「も、もう一撃お見舞いしてやりますわぁ……」

「なんだーもう燃料切れなんだ。でも、お陰で随分と瓦礫を分解出来たかな。

アイジィ。食糧を分けて上げよう。そっちの君。そのおば……人放っておくと倒れちゃうよ」


 謎の女性、ヤトカーンにそう言われてベルベディシアを見ると、髪色は黒色と化しつつも、目を

回しながら放電しているベルベディシアがいた。

 おいおい、また血を差し出さねばならないのか。

 それにしても……厄介な道具を持っているものだ。

 雷撃が全く効かないのなら、ベルベディシアは困るだろう。

 だが……もう一つの手段とやらは使わなかったし、最初から殺すつもりは無かったのかもな。


「わたくし、まだ、戦えますわぁー」

「ほら、腹の音が鳴り響くぞ。飯を振舞ってもらえるらしいから行こう」

「許せませんわぁ、あの小娘。わたくしは、わたくしは」

「はいはい。ただの安い挑発だ、ベルベディシア。お前はおばさんじゃなく、あの雷帝、ベル

ベディシアだろう。あの三人組がいなくて本当に良かったよ。四人で電撃をそこら中にばら撒

いてたらどうなっていたことか」

「おーい妖魔君も早くー」

「……あんたも妖魔だろう。ふぅ……にしても」


 横穴からターゲットに反応はある。

 俺を狙ってはいそうだが出て来る気配がない。

 やはり警戒しているのだろうか。

 それかあのヤトカーンという女が既に手を施しているのか。

 何れにしても少し話を聞いてみなければ。


 テントのようなものの中に入ると……そこは異様に広かった。

 これ、もしかして領域となるアーティファクトじゃないのか? 

 こんな貴重そうなものを誰もおかずに放置してるのか。


 中には椅子やテーブル、ベッドまで用意されてる。

 これは便利そうな道具だ。


「良いよ座っても。アイジィ。早く早くー」

「ヤトの姉御ぉ。味付けはどうするんですかい?」

「もっちろーん。甘々」

「へい。ただちに」

「これもあんたの道具かい?」

「さっきから不思議に思ってたし警戒もしてたんだけどねー。本当に私らのこと知らない

の? 妖魔君」

「ルインだ。済まないが存じていない。えっと、遠くから来たから」

「遠く!? 遠くって何処? 奈落の果てとか? それはないかぁ。ノースフェルドの最奥

とか? というよりも君、全然妖魔っぽく見えないけど本当に妖魔君なの?」


 片目のレンズがきらりと光り、興味津々に俺を見て来るヤトカーン。

 答え辛い……俺の故郷は恐らくアトアクルークにあるんだよ。

 だが、そこから来たと言えば怪しまれるだろうし、フェルス皇国から来たと言えばそれで

知らないのはおかしいと思われるかもしれない。

 少し思案していると、再びギュルギュルとベルベディシアの腹の音が鳴り響き、雷撃を放出

しようとしたので慌ててその手を止める。


「んー。良い音。本当にお腹空いてたんだね。そっちのおば……人は妖魔じゃないみたいだけど

何て種族なの?」

「詮索は出来れば止めてくれないか。こちらも色々と事情があってね」

「それならさ。交換条件でどう? 私ね、知らないことがあるのは許せないんだ」

「ヤトの姉御ぉ! あんまり首を突っ込まんでくださいよぉ」

「アイジィは黙ってて! すっごく興味あるんだから。妖魔君、ずばり! アトアクルーク出身

でしょ?」

「姉御!? それはあり得んでしょう」

「……何故そう思ったか尋ねても?」

「だって妖魔君の顔さ。四つの皇国に当てはまらない傾向なんだよね。それに性格も妖魔っぽく

ないし。それなのに間違いなく妖魔君は妖魔だよね」

「ちょっと待て。交換条件なのに俺たちが話をしたら、君が何をするのか聴いていないんだが」

「君じゃなくて私はヤトカーン。私たちの正体を教えるっていうのはどう?」

「それは興味が無いな。先を急いでいるんだ。ここに立ち寄ったのは地下からフェルス皇国へ向か

うためだ」

「それなら……道案内と護衛でどう? 道、分からないんでしょ?」

「まぁ、それは確かに有難いが……」

「姉御ぉ! ……料理は出来やしたが皇国方面へ戻るんですかい? あっしは反対ですぜ」

「もうちょいでここの作業終わるから。ほら、この欠片。おば……じゃなかった名前なんだっけ?」

「ベルベディシアだ。頼むからおばさんとは呼ばないでくれ……」

「消炭に……しますわぁ……」

「んーと。じゃあベルシア。私は彼女をそう呼ぶことにするよ」

「呼称で呼ぶのが好きなのか。なら俺は……」

「だめだめ。君は妖魔君。もうそう決めたから」

「はぁ……それなら道中の護衛と道案内を頼むよ」


 妖魔は変わり者が多いと聞くが、この女もかなり変わっているようだ。

 アイジャックに料理を差し出されると、ぐったりとしていたベルベディシアが起き上が

り、料理を夢中で食べ始める。

 しかし……「甘! 甘すぎですわ! お水! お水が欲しいですわ!」

「えー。これくらい普通だよ。ね、アイジィ」

「姉御の味覚は普通じゃねえです。それにしてもこっちの姉さんは人間かい?」

「わたくしが人間? そのように見えるとは心外ですわね」

「こっちは一度名乗っているが雷帝、ベルベディシア。地上の絶魔王だ」

「地上……そっか。あれは妖術でも幻術でも魔術でもない。媒体は血液?」

「その通りですわ。忌々しい小娘の癖に良く理解してますわ。満腹になったら消炭にして

差し上げますわ」

「挑発したのは確かだもんね。ご免なさい。謝るわ」

「あら随分とあっさりしてますわね……まぁ良いですわ。わたくしは寛大。一度くらいは

大目にみて差し上げますわ」

「それで妖魔君。話は戻すけど君は何処から来たの? 何者?」

「俺は……」


 道を急ぐためだ。仕方ない、協力を仰ぐか。

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