第百十六話 地底エリアの地の底に住まう者

「ルイン! しっかりして! ルイン! ルイン!」


 俺を揺り動かす声が聞こえるような気がする。誰……だ。


「いざとなったらこの幻薬使えっていってたな。

ルインの傷治してくれよ。頼むよ」


 ちょっと目開くかな……俺はゆっくりと目を開ける。

 するとメルザが目に入った。


「ああ、皆無事か……? 神の空間は発動したのか?」

「しなかったわ。だから相当のダメージを負わせてしまったの。

ごめんね。私頼まれたのに」

「いいえ、ファナさんはしっかりとお二人をお守りしましたわ」

「そうだ、そうだぞ! 俺も見回りで活躍だったな? べっぴんさんは

愛の抱擁で活躍だ! な?」


 そういうとファナのパンチがレウスさんに炸裂した。

 ボーンと飛んでいくレウスさん。


「ファナ、助かったよ。ありがとう。ここって砂に飲み込まれて落ちた先だよな。

俺たちは助かったみたいだが、ベルローゼさんは……いやあれだけ強いんだ。

きっと大丈夫だろうな」


 そう信じて立ち上がる。神の空間は無事見つけたようなので、襲われると

戦いづらいこの場所に、長居は無用だ。


 移動しようと声をかけ、パモを抱いたメルザを背負い歩き出す。

 ファナとミリル、ルーもそれに続く。レウスさんは封印収納した。

 地底エリアの更に下の地底だから、深地底とでも呼ぶべきだろうか。


 ここは不思議な空間だった。 

 上空からは時折砂がドバっと落ちる場所がある。

 地面は要所要所硬く、時折モンスターが見受けられる。

 なるべく戦闘は避けたいので、安全に休める場所を探しながら移動する。

 メルザがキョロキョロと周りを見ながら話しかけてきた。


「なぁルイン。ここからどうやって戻るんだ? 俺様たち上に戻れるのかなぁ?」

「どうだろうな。未開の地での遭難だ。だが、どうにかして戻らないとな。

まずは安全に休める場所を見つけてその後どうするか考えよう」


 どちらに行けばいいかを移動しながら思案しつつ歩いていると、小さな横穴が

空いている場所があった。


「メルザ、下に降ろすぞ。あの穴の中を見てくる」

「ああ。俺様も一緒に行く。後ろから攻撃も出来るからよ」


 ファナとミリルに少し待つよう合図して、メルザを連れ横穴に入って行く。

 先ほどファナが遭遇したというアリの巣かもしれない。

 だが、横穴はほのかに明るい……明かりでもあるのか? 


 俺とメルザは慎重に横穴の先に進んだ。

 途中、生活用品のような物が目についた。


「あれ、どう見ても生活しているような物とかがあるんだけど」

「砂漠に飲み込まれた時に落ちてきたのが集まったのか?」


 そう話していると、奥から声が聞こえる。


「そこに誰かいるのか?」


 どうやらこの穴に住んでいる者がいたようだ。

 もしかしたら帰り道が聞けるかもしれない。


「すまない。俺たち上から落ちてしまって」

「そこでちょっと待ってくれ。今からそっちへ行く」


そういうと、声の主は俺たちに近づいてくるようだ。

ここからでは確認できない。


 ――しばらくすると、俺たちと同じサイズのモグラ……いやらっこが近いか? 

 その生物が穴の奥から出てきた。

 二足歩行している。しかも両手持ち用の大き目の剣を持っている。


「悪いな。突然の客だ。警戒しないわけにはいかんのでね」

「獣人……と言えばいいのか? すまない。獣人の知り合いは少ないので

驚いてしまって。俺たちはあなたと敵対するつもりはない。武器を下ろしてくれないか」

「俺はモラコ族だ。おまえらこの辺の者じゃないようだな。

上から落ちてきたのか? それなら遭難者か。どこの国から来た?」


 モグラとらっこの中間みたいな名前だった! 覚えやすくて助かる。


「フェルス皇国から来た。軍隊に所属している訳じゃない一般民だ」

「ベレッタの者じゃないのか。少し詳しい話を教えて欲しい。そう簡単には

信用できんのでな」


 俺たちはここへ来た経緯などを説明した。

 モラコ族の者はそれを真剣な表情で聞いている。


「話はわかった。地上に出たいってことなら案内出来ないわけじゃない。

だが条件がある。その条件を飲めば信用して道案内してやろう」

「どのみち右も左もわからないこの場所で、適当に彷徨うのは危険だ。

喜んで引き受けよう。いいか、メルザ」

「ああもちろんだ。それよりよー、腹減ったよー……」

「モラコ族のムーラだ。奥へ来い。食事を振る舞おう」

「ルインだ。よろしく頼むよ、ムーラ」


 こうして俺たちは、モラコ族のムーラにに案内されて穴の奥へ進む。

 食事をご馳走になれるのは有難いな。

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