第百十七話 モラコ族と歓談

 俺たちはムーラさんの案内の下、穴の奥へと案内された。

 そこには二十程のモラコ族がいて、こちらをじっと見ている。 


 その中でも……小さいモラコ族は非常に愛嬌のある顔つきだ。

 ファナがきらきらした目で見ている。

 メルザは余程お腹が空いているのか、子供たちの持っている

食べ物を羨ましそうに見ていた。

 ちゃんと食事にするからちょっと待ちなさい……。


「こちらの方々は上から来た者たちだそうだ。

ピーグシャークを退治するのを手伝ってくれる。食事を分けてやりたい」

「本当か? 食事だけとったら逃げるんじゃないだろうな」


 厳しい眼差しでモラコ族の青年? がこちらを見ている。

 まぁ突然人が押しかけてきたら、そう疑われても仕方がない。

 けれど、食事ならこちらにもちゃんとある。


「いや、食事もこちらで持っている分はあるから。安全に休める場所が欲しいって

のはあるけど」

「上の食べ物? 美味しい物なのー?」

「美味しいー?」

「おいし……?」

「ああ、きっと美味しいと思うぞ。パモ、この子らにアップルとスッパム

を出してやってくれ」

「ぱみゅ!」


 パモは子供たちに次々と果物を出す。

 見たことがない果物に子供たちは不思議そうにそれらを眺める。


「こうやって食べるのよ。見ててね!」


 そう言うと、ファナは子供たちに食べ方を教える。

 よっぽど小さいモラコ族が気にいったんだな。

 とても愛らしい種族に思える。

 見よう見まねで食べるモラコ族たちに、果物は大好評のようだ。


「ムーラさん。この場所には昔から住んでるんですか?」


 警戒を解いてもらうためにも、丁寧な言葉遣いで尋ねてみた。


「いや、以前はベレッタに住んでいた。わしらは追い出されたんだ。

戦の邪魔だと言われてな。我々の種族は元々土や泉が好きでな。しかしここでは

食料を取るにも苦労している。君らに条件を出したのも食料事情があるからだ。

根本的な解決にはならんが、こなしてもらえば大分持ちこたえられるはずだ」

「そんなら俺様の子分になって、領域にくればいいんじゃねーか?」と、メルザが

スッパムをかじりながら言った。

 ほっぺにスッパムの皮がついてる。

 メルザにすっと手をだしとってやる。

 ちょっとは気にしなさい! 


「領域とは、どこか安全に住める場所を知っているのか?」

「ああ、俺様とルインの領域だ。ルーンの領域ってんだ」

「だがメルザ。ここからだと一度フェルス皇国まで行かないと

領域には入れないだろう?」

「あー、そうか。ここからそんなとこまではいけねーか」


 そこまで考えてなかったのか。まぁ迎え入れたいって気持ちは

メルザらしいが。


「この場所はフェルス皇国まで伸びる永遠の砂牢という場所だ。

わしらは土や砂を掘り進み、水の中をスイスイ泳ぐこともできる。

フェルスス皇国の湖へとつながる道があるが、その領域とやらに本当に行って

いいのかね?」

「構わないぞ。な、ルイン!」

「ああ。我が主がそう言うなら歓迎するよ。だが、先ほども伝えたが、これから

マッハの村に物資を届けるのと、ベレッタで仲間の情報を集めたいんだ」

「ではそれを我々が助けるとしよう。マッハ村までは案内できる。ベレッタ方面の道には

詳しい。わし以外の者はモータに任せてフェルス皇国付近まで移動させよう。その前に

ピーグシャークを退治してもらう必要はあるがな」


 モータというのは先ほど疑った青年のようだ。

 ちょっと反省した表情になっている。

 わかってくれれば十分だよ。


「フェルス皇国妖兵エリア東南端に泉がある。もしそこへ向かえるなら、その泉に

潜りルーンの領域へ行きたいと願えば、俺たちの領域に辿り着けるはずだ。

俺とメルザが認めさえすれば誰でもな。もし着いたらニーメという男の子に事情を

説明してくれ」

「俺様の方の領域の穴はもう使ってないから、そこは自由に使っていいぞ!」


 そう言うと、モラコ族たちは多いに喜んだ。

比較的狭い穴が好みのようだ。あそこなら泉と畑もあるし、いい環境だろう。

 作物を育てるのを手伝ってもらったり、魚なんかも取ってもらえるか? 


「何から何まで有難い。無事ことがうまくいったら、ぬしを主として認めよう」

「ああ。まずはピーグシャークとやらを倒すんだったな。

そいつはどこにいるんだ?」

「この穴から出て北にしばらくいくと、飲み水にしている水場がある。その一帯に

生息する恐ろしい奴だ」」

「十分休憩もさせてもらったし、そろそろ行くか」

「ムグムグ……おう!」


 俺はにこっと微笑みながら、フェルドナージュ様の

真似をしてメルザを戒めた。食べ終わってから話なさい! 

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