第百十四話 予想外

 ――船の舵を試しに交代してもらったら、途端に疲れが出た。あれ、なんでだろう。

 ベルローゼさんが俺を見て察したのか、やれやれという表情を浮かべる。


「貴様が代わりに船を操作していたからだ」


 え? 舵を持ってるだけで船が動くの? 勝手に妖術が使われる仕様か。 

 メルザが心配したのか、地面を叩いてメルザの許に座るよう指し示している。

 その場所へ行くと、パモが飲み物を出してくれた。ありがたい。


「貴様らに手を借りる気はなかったのだがな。まだ時間はある。あとは休んでいろ」


 パモから飲み物を受け取ると、ベルローゼさんに差し出す。

「……一応礼を言う」


 おーっとツンデレさんがデレました。ありがとうございます。

 にっこりと微笑むとパモの下へ戻る。


「……む、これはうまいな。何の葉だ?」

「茶とリンゴを混ぜて作ったものです。

アップルティーといいます」

「ほう。聞いたことがない。城に戻ったらこの茶葉を用立ててもらいたい。

フェルドナージュ様にお出ししたいのだ」

「もちろんいいですよ。リルやサラにも飲ませたいし。

必ず連れて帰りましょう」

「……そうだな」


 この人なりにリルとサラの事を心配しているようだ。

 まったく……素直じゃないねツンデレさんは。


「そろそろ着く、支度をしておけ」


 そう言われて、立ち上がった俺たちは飛翔船から外を見下ろす。

 遠目に見えるのが残虐のベルータスの根城か……。

 魔王の城みたいだ。妖魔皇帝だから妖皇城だよな。

 どんな奴なんだろうな。残虐のなんて肩書があるくらいだ。

 相当やばい奴だろう。出来れば関わりたくはないが。


「ここで降りるぞ」


 そう言うと、徐々に高度が下がっていく。

 下は湖だ。水空両用だろうけど、地上にはやはり降りられないか。

 そりゃそうだよな。地上なんて走ったら船底に穴が開くだろうし。


 無事着水して岸辺に着く。マッハ村という場所までは

まだ距離があるようだ。


「パモ。これ吸い込めるか?」

「ぱみゅっ!」

「じゃあ頼む」

「おい、何をしている。一つずつ運ぶぞ……なに?」


 パモが荷物を吸い込むのを見て驚いている。

 あれ、知らなかったっけ。パモが収納できるのを。


「おい、なぜその荷物をそいつに食わせた」

「ああ……これはいつでも取り出せるので……パモ、ちょっと出してみて」

「ぱみゅ!」

「……ならばいい。随分と便利な奴を連れているな」

「大切な仲間ですから」

「……だいぶ手間が省けそうだ。俺は船をカモフラージュしてから行く。

先にあちらを目指して進め」


 ――荷物を全部収納してくれたパモを連れて、俺たちはマッハ村へ向かい出した。

 船で向かった理由がよくわかる。

 マッハ村って砂漠みたいなところを通らないといけないんだな。

 風がだいぶ強い。ファナは浮いているため、風が強いとうまく歩けない。

 俺の封印の中に入ってもらおう。 

 メルザにパモを抱えてもらい、そのメルザを背負い、しっかりと紐で結んで進むことにした。


 パモがいなければ、まともに積み荷を運ぶのは大変だった。

 ミリルは重たいルーがいるから安心だ。

 後ろを振り返ると、船の形が跡形もなく消えていた。

 ……やはり相当な工夫が凝らされている特別な船のようだ。

 フェルドナージュ様の船なら当然か。

 

 俺が頂いたこの蛇籠手と蛇佩楯も、笹間じい性能だしな。

 後ろからベルローゼさんが無音で近づいてくる。その足取りが速い。


「おい、急ぐぞ」

「どうしたんですか?」

「砂嵐がくる。巻き込まれるぞ」

「えっ?」


 言うが早いか突風が急遽吹き荒れ、俺たちを襲う。


「くっ……。まずいな、これは予想外だ」

「どうするんですか! このままだと飛ばされます! というか予想外起こりすぎでしょ!」

「仕方がない。いちかばちかだ」


 そう言うと、ベルローゼさんは俺とルーを近くにある砂地獄へ突き落とした。


「無事に積み荷を届けろ。いいな」

「ベルローゼさーーーーーーーーん!」


 砂地獄に飲み込まれながら、ベルローゼさんが突風に吹き飛ばされるのを見た。

 俺達は砂に飲まれていった――――。

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