第百十三話 ベルローゼの実力

 飛翔船で空を航行中、ベルローゼさんは舵を取りながら急に思案するような

仕草をとる。


「まずいな」

「どうしたんですか、ベルローゼさん」

「あれを見ろ」


 ベルローゼさんが指す方向を見ると、先ほどベオルブイーターなる生物が

いたであろう方角から、無数の何かがこちらへ近づいて来るのが見えた。


「あれ、方向的にやばくないですか?}

「だからまずいと言っている。この浮遊船メドゥーサリアに傷一つ付けるわけには

いかない。お前らの中で遠距離攻撃にたける者は誰だ」

「それならメルザかな。ミリルはさすがに飛んでいる相手には攻撃できないだろう?」

「いえ、出来ますわ。それにルーもいます。わたくしも攻撃可能ですわ」

「実は私も修行して、アルノーって弓特化モンスターに変身できるの。

三日月の弓も持ってきたのよ」

「……俺以外全員いけそうです」

「なら貴様は舵を取れ。我々であれを対処する」


 俺は船の隅でのの字を書き出した。レウスさんが出てきて慰めてくれる。

 優しいなレウスさんは。


「俺も参加するわ! な? あいつら友達だけどこっちくるからよ。

こらしめてやるわ、な?」


 俺はさらに小さくのの字を書き始めた。

 どうにかして必ず遠距離攻撃を手に入れてやる、ちくせう。


「あれはアルキオレイブンだな。ベオルブイーターに襲われて大量に逃げてきたか。

正面は俺がやる。それたものを攻撃しろ」

「わかった『わかりましたわ』」

「私もアルノーに変身するわね」


 そう言うと、ファナはピクシーのような羽の生えた妖精の生物に変身した。

 決してファナに羽が生えたわけではない。

 俺は舵を握るだけだ。舵の持つところにのの字を書いているけど。


「妖星雷の術」


 凄まじく恰好いいポーズを取りながら、ベルローゼさんは左手を前にかざす。

 手先から黒い雷が扇状に放射しつつ、時折星のきらめきのようにバチバチと白い光を

発する。

 まじでかっけぇ。


『ギギィーー!』


 奴らの数十匹が奇声を発しながら落下していった。 

 対象まで距離はあるが、直進してこちらへ向かっていたアルキオレイブンは

左右に少し分かれて向かってくる。


「燃臥斗!燃臥斗!」

「ぱみゅ! ぱーみゅ!」


 メルザとパモは左側に逸れたアルキオレイブンを仕留めにかかる。

 パモの風斗を受けてメルザの燃臥斗が勢いよく飛んでいく。

 あの連携も実にいい攻撃手段だ。


「竜の息吹! いきますわよルー!」

「ルイーーー!」


 ミリルがルーに指示を出して、ルーの青黒い鱗を撫でる。


「ル、ピィーーーーー」


 ルーが吐き出したのは黒い炎だった。


「竜擬爪」


 ミリルの腕がルーそっくりになる。

 そして……その爪で爪撃を飛ばし重ね合わせる。


【黒い爪】


 重なった黒い爪がアルキオレイブンを襲った。大半が沈んでいく。

 竜騎士は竜がいるかいないかで天地ほどの差があるな。

 部分擬態して攻撃とか、うらやましい……! 


 メルザ、パモとミリル、ルーが打ち損じたのを次々と矢で射抜いていくアルノーファナ。

 後方でレウスさんが応援している。おい、戦うんじゃなかったのか。


「ほう、貴様らもやるではないか。最後の仕上げといこう」


 両手を上げたベルローゼさん。一体何が起こるっていうのさ。

 掲げた両手に黒い薄い膜のようなものができる。

 先ほどと同じくきらきら付きだ。

 双方が重なり三日月型になる。

 そして……「黒星の鎌」


 アルキオレイブン方面に投げると、それはどんどん巨大化し、薄い超巨大鎌の先端部分

の様になった。

 ……あなた、そんな範囲攻撃ずるくないですか? 


「終わりだ」


 そう言って、相手に当たる前に俺がいる方へ振り返りこっちに来る。

 遠方で全てのアルキオレイブンが落ちていく様を遠めに見た俺は……主人公と

して完璧な役割をこなすベルローゼさんと、舵を代わるのだった。


 認めん、認めんぞ! その格好良さ! 

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